ログ・ホライズン

□SUNNY DAY SONG
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式を終えて外に出た四人に、光と三拍分の音が降り注ぐ。
それは、まるでニューヨークのある一角のような、溢れる光。
そして、その光に照らされているのは、和服をアレンジしたステージ衣装を着て、扇子を持って、一段高いステージで踊っている九人の少女たち。

「ああ、これは……」
シロエは気付いた。これは、μ′sが一躍有名になった、ニューヨークでの『Angelic Angel』のステージの再現だと。
光の中で歌う彼女達は希望に満ち溢れていて、本当に元気をもらえる、素敵なステージをプレゼントしてくれたのだと思った。

9人が金色の扇子を振れば、光のラインが空中に浮かぶ。
光の軌道は重なっては離れて、時にはとん、と二人の扇子が重ねられて。

『見つめ合うために 生まれた二人になってく』
絵里が歌えば、四人がどきっとして。

CMでも聞いたことのある、サビのメロディーが響く。

Angel、とμ′sが言えば、小さな天使の羽がμ′sの全員の背中に現れて、
そして歌詞通りに消えていく。

ホログラムが世界にいくつも浮かんで、観客に四人の写真を見せては消える。
それは、あの大災害を共に生きた証しでもあった。

『明日じゃない 大事な時は 今なんだと気がついて』
9人が作った光のハートが宙に浮いたまま残り、ふわりと消えてゆく。
そして、その光が集まって、自分達の目の前に光の道ができていく。

道が完成すると、穂乃果はおいでおいで、と手招きをし、
センターの絵里は、真っ直ぐにシロエ達に手を差し伸べた。

それを見たシロエは、優しくアカツキに声を掛ける。
「行こうか」
「ん」
二人は自然と手を繋いで、光の道へ一歩、踏み出した。

それはきっと、あの日月で見た光のような道。
今ここにあることが大切で、
今ここに二人でいることが大切で。
それ以上でも、それ以下でもないのだ。
そんなこと、二人とも分かってはいるけれど。

『燃え尽きるまで 踊らなきゃダメさ』
その歌詞に合わせて、観客皆がドレスアップしていく。
「わぁ!」
「なんやこれ!」
「す、すごいっ」
それは、μ′sの衣装と似た、それでいて少し違う和服を元にしたドレス。
「お、俺達もか!」
「な、なんだこの服は!?」
男性には、やはり和のテイストを入れ、小物にちりめん柄の布や和風のアイテムを使ったタキシード。
ルンデルハウスは、初めてのつまみ細工に大いに驚いたようだ。

皆が驚く中でも、歌は続く。
『抱きしめてと囁いた』
「……主君」
「アカツキ、もう」
「む。……恵、」
ぐいっ、と、アカツキがシロエの服の首元を引く。
「何?」
「……抱きしめて」
ぼそりと呟かれたその言葉が、歌詞と同じだとは気付かぬまま、シロエはアカツキに返答した。
「!……う、うん。」
アカツキをお姫様抱っこで抱え上げたシロエは、そのまま光の道をゆっくり進んでいった。

「シロエち、大胆ですにゃあ」
「……」
「では、我が輩達も行きますかにゃ?」
「あ、にゃん太さん?」
(いいなぁ、って思ってたなんて、言えないよ)
「ああいう役目は、シロエちにのみ任せるのではいけませんにゃ」
「はい……?」
そう言うと、にゃん太は慣れた手つきでセララを抱え上げる。
一瞬驚いた後、途端に晴れやかな笑顔になったセララの額に小さくキスをして、
にゃん太はセララをお姫様抱っこしたまま、光の道を一歩ずつ進んで行った。

ステージで曲とシンクロしながら煌めいていた4人の様々な写真は、ふわりと浮かび上がって観客の元へ降りていった。
「幸せそうですね、シロエ様」
「そうですね」
「にゃん太さんも」
「嬉しそうだよねぇ」
そんな多くの観客の声に気づかぬ4人は、ステージへの最後の一歩を、登った。

空からきらきらと紙吹雪が降ってくる。
シロエが一枚掴もうとすれば、それはひらひらと逃げつつもシロエの手に捕まって、
隣でアカツキがただ手を伸ばせば、その手にふわりと一枚落ちた。
二人はお互い伸ばした手に紙吹雪を手に入れて、顔を見合わせて、笑って。

『Ah 「もしも」は欲しくないのさ 「もっと」が好きAngel』
歌詞に合わせて、ぶわ、と、翼が4人の背中に広がる。
それはそれほど大きい翼ではないけれど、4人を大いに驚かせて。
ペアになって手をつなげば、少し体が浮かび上がる。

『翼をただの飾りにはしない』
その翼の羽がひらりと舞い落ちてきたかと思ったら、それは空から降ってきていた。
その場にいた全員に、帰還の日を思い出させるかのように降る、白い羽。
そして、気づけば4人の手の中には、小さな翼のストラップがあった。

ステージは、扇子のきらめきを見せた後に一瞬で暗くなり、
盛大な結婚式と、μ‘sのエルダーテイルでのライブは幕を閉じたのだった。



「穂乃果!」
「どうしたんですか、ツバサさん」
「来てくれたわよ!」
「えっ?」

そして、μ′sの、秋葉原でのライブ当日。

「大丈夫、だったかな」
「もちろんです! ありがとうございます、シロエさん!」
「頑張ってくださいね」
「楽しみにしているぞ」
「はい、クラスティさん、アカツキさん!」

会場には、シロエとクラスティを筆頭として、多くの冒険者が集まっていた。
一度オフ会で会っていた人も多いが、その容姿や衣装の違いのために、戸惑う相手も多かった。
そんな冒険者の皆に、μ′sは丁寧に声をかけて回る。

「今日は、来てくれてありがとうございます」
「楽しんで行ってくださいね」
「ウチのパワーを注入するよー!」
「私たちのこと、応援してくださいっ」
「凛の頑張り、見てほしいにゃー!」
「もう、滅多にお礼なんか言わないんだからねっ」
「みんなの分の衣装もありますからね〜」
「にこにーの可愛いところ、しっかり見ていってね!」
「みんな、準備はいいかしら?」

皆の声が揃って、いつも以上に青く澄んだ秋葉原の街に響く。
そして、皆のための歌が始まる。

『μ′s、ミュージック スタート!』

――fin.
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