ゴーストハント


□あなたを想う
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−−−ナルには月の光がよく似合う。
麻衣は横目で秀麗な姿を見やりながら、ぼんやりとそう思った



薄暗い部屋で、手元の明かりを残しただけの状態で、ナルはいつものごとく本と親交を深めていた。
おいおい、恋人ほっといてどこまで二人で仲良くなる気?
なんてことを言っても、かえってくるのは辛辣な嫌味だろうから、彼女は懸命にも口をつぐんでいる。
そうして思う存分彼を眺めていることにする。

年中を通しての漆黒の服と髪が、夜の闇に溶けつつあるなか。白いその面は、暖色を帯びた手元のランプに照らされて、昼間太陽の下で見るよりもずっと妖艶に感じられた。
そこに今まで雲に隠れていた満月が姿をあらわして、ナルの輪郭を明らかにする。

男性とか女性とか、そんな性別をこえて「きれい」と形容される彼に嫉妬したり、引け目を感じなくはないけれども。
「・・・好きなんだよなぁ」
麻衣はぽつりと思わずもらしてしまってハッとする。
「・・・麻衣?」
ナルがいぶかしげな顔をするのを見て苦笑した。
「邪魔してごめん。・・・つい口から出ちゃった」
何なんだ、というナルの表情に麻衣は一人納得顔で喋る。
「いやぁ、ナルが好きだなぁって再認識してたんだよ。綺麗過ぎる恋人をもつと色々苦労するけどさ。でもさりげなく気を遣ってくれたり、優しかったりするじゃん。それを思い出したら、そんなことどうでもいいって言うか、好きになってよかったなぁって改めて思ったんだよ」
そうしてにゃははと照れ笑う。
そんな麻衣にナルはため息をつき、読んでいた本を伏せて軽く目を揉んだ。

−−−麻衣は無自覚すぎる。

そう考えてナルは席を立つ。
恋人に警戒心を持て、というのもおかしな話だけれども、そんな無邪気な言動がナルをどんなに刺激するのかまるで理解していない。今もただ自分と何気ない会話を楽しんでいるつもりで、明るくニコニコしている。
自制心と闘っているとなんだか自分ばかりが麻衣を求めているようで、ナルは面白くない。我ながらこうして他人にいともたやすく自分を左右されてしまうことも未だに理解できないし、不愉快にさえ感じることもある。
けれども。

「な、なる!!」
いきなり麻衣は腰を引き寄せられてたじろぐ。加えて優しく顔に降るキスの雨にも。
「静かに」
そうして唇を塞いでしまって、どうしたものかとナルは思考を巡らせた。

今は自分が求める比率が大きいかもしれない。
けれども、これから先は麻衣が自分を求めるように仕向けていけばいい。そうして自分がいないと彼女が成り立たないくらい、溺れさせてしまえばいいのだ。そうなれば、この不愉快な感情も和らぐだろう。

・・・時間はたっぷりあるんだ。

そんな仄暗い感情を自覚して、キスの合間に麻衣にはわからないくらい微かにナルは微笑み、麻衣を抱く腕に力を込めるのだった。




fin

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