ゴーストハント


□あなたと雨のうたを
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本日は日曜日。外は雨が降っていて、何をするにもなんとなく億劫な気持ちになる。
麻衣は最近、休みの日はナルのマンションで過ごすことが多くなった。とは言ってもワーカーホリックな恋人は、休日でさえも麻衣より文献や調査書類と仲良くしていることが圧倒的に多い。付き合いはじめた当初は甘い雰囲気に憧れて不満に思っていた麻衣だったけれども、近頃では諦めがついて、二人に流れる穏やかな空気を楽しむようになっていた。
第一、甘々なナルなんて怖すぎるもんね。そんなことを思いながら。

現に今も書斎にふたりで篭ってはいるが、同じ時間を共有しているわけではない。
ナルはひとり革張りの椅子で読書中。麻衣はカーペットに寝そべって、持ち込んだファッション雑誌をながめている。
静かな時間。
ふと、麻衣は視線を感じて顔を上げた。眉をしかめたナルがいる。
「なんだ、それは」
「は?」
質問の意味がわからず、麻衣は思わず呆ける。
「その鼻歌」
「えへへ、音が外れてた・・・?」
我ながら歌が上手いとは言い切れない麻衣は、読書の邪魔してゴメンネ、と小さな声で謝った。
「元の歌を知らないから音程云々はわからないが。別に聞き苦しいほどではない」
ヤな言い方するやつだなぁと麻衣はムカっとするが、今日のナルは珍しく、恋人と会話をする気でいるらしい。最近になって、ごくごく稀ではあるがこんなふうに会話をするようになった。たわいもない話。けれどもそんな何気ないふれ合いが麻衣は嬉しくて仕方がない。それは普段の会話が少なすぎるからで、綾子あたりが聞いたら麻衣の不憫さに怒り心頭になることだろう。

「僕が聞いたのは、どんな歌かということなんだが?」
「『雨ふり』だったかな?雨の日におかあさんが迎えにきてくれる歌。日本では誰でも知ってるんじゃないかな」
「平和な歌だな」
感想なのか皮肉なのか判然としないナルの言葉に麻衣は反応せず、たった今思いついた疑問を口にする。
「そういやイギリスにも雨の日に歌うようなのはあるの?」
「ああ。ルエラがよくナーサリーライムを歌っていた」
「ナーサリーライム?」
「こちらでは『マザーグース』と言ったほうが一般的だろうな」
「それなら知ってる。ハンプティ・ダンプティ!」
「・・・麻衣の知識はひよこ豆程度だな。教養を疑う」
「うるさいやい!!一言も二言も多い!・・・それで、どんな歌なの?」
わめくものの、あっさりと気を取り直して聞く麻衣に、ナルはため息をついた。
「ルエラは雨の日には『Rain rain go away』を歌っていた。いろんな歌をよく知っていて、時には子守唄として聞かせてくれたが、僕はほとんど覚えていない」
あまり聞くことの出来ないナルの思い出話に、麻衣は内心飛び上がりそうなくらい喜びながらも、話にじっと耳を傾ける。
ナルが子守唄を聞いてる姿を想像したら笑いがこみ上げてくるが、我慢我慢。
隠しきれていないニヤニヤ顔の麻衣に、ナルは胡乱な視線をなげかけてから窓の外に目をやった。
麻衣もつられて窓の外の雨を見る。そして直後に聞こえてきた聞きなれないメロディーに目を瞠った。
−−−Rain rain go away,
  Come again another day.
  Little Johnny wants to play;
  Rain, rain, go to Spain,
  Never show your face again

それはしっとりとした歌声だった。とても静かだが、存在感のある声。
ナルが歌うなんて初めて聞いた。・・・ううん、それどころか想定できる出来事の範疇に無かった。
あまりのことに呆然としつつも、麻衣は気になって静寂を破る。
「それはどんな意味?」
「・・・雨が降って欲しくないというような意味。麻衣がさっき歌っていたのとは正反対の内容だが」
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