ゴーストハント


□彼らの憂鬱【1】
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市立かすが保育園。

ここはなんということはない、ごくごく普通の保育園である。教育方針はきわめて明快。
『あかるく元気にのびのびと!』
体力づくりに力をいれて、運動専門の講師を招いているほかはこれといって特筆するところのない、ありふれた教育機関だ。
しかし近年になって、2つの名物ができた。

ひとつはアルバイトの大学生、谷山麻衣。高校時代から雇われており、その影響で保育士を目指して目下勉強中の勤労学生である。
アルバイトを始めたころは幼さが目立つ顔立ちだったが、ここ1〜2年でぐっと大人びて華やかな雰囲気が出てきた。しかし人を選ばない態度と明るい笑顔はそのままに彼女の魅力を引き立て、男女を問わず送迎の保護者たちに絶大な人気を誇っている。

もうひとつは年長クラスに在籍する双子の兄弟、ユージーンとオリヴァー。漆黒の髪と白い肌を持つ彼らは見目麗しく、目にしたものはおしなべて惹きつけられる。一人でもハッとするほどであるのに、この兄弟は鏡に映したようにそっくりで、見分けがつかないほどであった。
―――ただし、口をひらくまでは。兄のユージーン―ジーンは人懐こい性格であるのに対し、オリヴァー―ナルはめったに笑わず一人で絵本ばかり読んでいる。周りに保育士どころか同級生すら近寄ることを許さないその様は、まさに結界でも張っているかのようだ。そんな彼ら(ナルにしてみれば唯一の例外)が殊更懐いているのが先に述べた、谷山麻衣である。


「滝川せんせー、おはよーございます!」
「おう、おはよーさん。麻衣、今日は早いな」
「うん、午後の授業が休講だったから、来ちゃった。あ、勤務時間じゃないし、タイムカードはまだ押してないよ!」
あわてて麻衣は付け加える。それに滝川は顔をほころばせ、麻衣の頭をがしがしと乱暴に撫でた。
「お前さんはほんとに可愛いなぁ」
「ぎゃぁぁ何すんの!もうっ、ぐしゃぐしゃになるじゃんかー!!」
わはは、と二人がじゃれあっているところで、突然滝川が顔をこわばらせる。その視線の先には双子の兄弟。


「まい、早く来られてよかったね」
にっこりと天使の笑顔でやってくるジーンに、麻衣は喜びをあらわにする。
それとは反対に、顔を引きつらせる滝川。
どうしてか、この双子は麻衣と二人でいるといつの間にか傍にやってくる。まるで自分を牽制するかのように。
成長して美しさに磨きがかかってきた二人に無言の圧力をかけられ続け、滝川はすっかり怯えてしまっていた。
―――別にやましいことなんか何にもないのに!しかも5歳児にびびってるなんて究極にカッコわりぃ!!
と思いつつ、すでに体制は逃げ腰だ。
「あぁ〜っと、そうだった、園長先生に呼ばれてたんだわ。麻衣、じゃあな」
そうしてあさっての方向を見ながらそそくさと行ってしまう滝川を訝しみつつ、麻衣はジーンとナルに向き直った。

「うふふ、今日はたまたま、ね。長いこと君たちの顔が見られるから嬉しいよ」
ぴかぴかの笑顔で麻衣がそう言うと、ジーンは真っ赤になって口ごもる。ナルでさえもわずかに頬を染めて口元を緩めた。
「これからねぇ、みんなでさんかく公園にいくんだけど、まいも行かない?」
ジーンはさりげなさを装いつつも、まるでデートに誘うかのような口ぶりで言う。
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