ゴーストハント


□おねえちゃんと一緒
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「やばい〜〜〜!!遅刻するぅ!!!」

ハアハアと真っ赤な顔で走るのは谷山麻衣、16歳。瑞々しい盛りの高校1年生。
幼いころに父を亡くし、中学のときに母を亡くした彼女は身よりもなく天涯孤独の身。高校へは奨学金で通い、中学の恩師が紹介してくれた格安のアパートで一人暮らしをしている。高校独自の特別奨学制度で、学校側が紹介するアルバイトで生活費をまかなっている勤労学生だ。毎日出勤時間には気を遣っているのだが、今日はホームルームが長引いて、遅刻してしまいそうになっている。


「すみません!!!遅刻しちゃいました!」
勢いよく駆け込んでくる麻衣に、茶髪の長身の青年が笑って答えた。
「5分も過ぎてねーから、大丈夫。ちゃっちゃと支度して、あいつらんとこ行ってやってくれ」
「はあい!」
麻衣の輝く笑顔につられて、青年も笑みを深くする。
「お前さんはいつも元気だねぇ。ま、そうでもないとここは続けらんねーけどな」
「ほんと、元気が取り柄で良かったと思いますよー」
そうして二人は明るく笑いあった。




+++++
ここは、かすが保育園。
麻衣のアルバイト先である。
といっても保育士の資格は持っていないのであくまでも雑用として雇われている。しかし雑用といいつつも、子供に好かれる性質とまじめなところが買われてか、園長先生に子供たちの遊び相手を認められているのが現状だ。生活費が入らないことには死活問題なものの、それを抜きにしても子供たちと触れ合えるこの職場が麻衣は気に入っていた。

「みんなー。おそくなってごめんねぇ」
エプロンを身につけ、麻衣はお遊戯室に入っていった。
「あー。まいちゃんだぁ」
「こんにちわー」
「まいたん あしょぶぅ」
にぎやかな歓迎に、麻衣はさっそくきゅぅぅんとなる。皆それぞれにかわいい。ぷっくらしたほっぺに満面の笑みを浮かべている姿がそこいらにうようよしているのである。
(きゃああ食べたい〜!!)
こみ上げてくるものをなんとかなだめるのに毎回一苦労してしまう。

この保育園では5時以降を延長保育とし、お迎えがまだの子供をお遊戯室に集めて合同で保育している。麻衣の担当は、体をはった遊び相手だ。

「今日は何しよっか?」
「仮面らいだー!」
「かくれんぼがいい」
「えぇ〜あたしおままごとー」
「みんないっぺんに言わない!ええっと、どうしよっかなー・・・」
と麻衣が考えていると、不意にスカートの裾をつかまれた。

「まいちゃん。だっこ」
「ジーンくん!ナルくん!」
声をかけたジーンの後ろで、ナルが黙って両手をあげて抱っこの催促をしている。
「うんもぉ〜、君たちは今日も可愛いなぁ」
子供に大人気の麻衣だが、なかでもジーン―ユージーンとナル―オリヴァーという双子の兄弟には特に懐かれていた。
黒い柔らかそうな髪に、白いもちもちの肌。さくら色のぷくぷくほっぺ。何もかもが愛らしい。もうすぐ3歳になるというこの双子ちゃんは、この仕事の一番の楽しみでもあった。
一人だけでもずっしりと重いが、麻衣は両手に二人を抱えてなんとか抱っこをする。
「危ないから二人とも動かないでね」
「あい。まいちゃんしゅきー」
「・・・ありあとぉ」
二人に頬ずりしていると、年長さんの不満げな声。

「まいちゃん遊ぼうよー」
「はぁい、ごめんね。ちっちゃい子がいるからちょっと待っててね」
いったん抱き上げた二人を降ろそうとするも、麻衣から離れたがらない。
ジーンは首にしがみつき、ナルは足で麻衣の腰をはさんでいる。
「まいちゃん、いっちゃやぁの!」
ジーンの涙目攻撃に、麻衣は撃沈する。
(かーわーいーすーぎーるッッ!!!)
「どぉしよっかな・・・一緒におままごとする?」
それは男の子からのブーイングで否決される。
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