ゴーストハント


□いばら姫―後編―
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王子は果敢に城へ乗り込んでゆきました。
いばらの道もなんのその。お供の長身の青年と共に、ばっさっばっさと行く手を阻む邪魔者を切り捨てていきます。
それもこれも研究のために。無表情な二人がいばらを切り捨てる様は、真黒な衣装も相まって異様な迫力がありました。道行く人間がいたら、森の悪魔と勘違いをして失神していたかもしれません。
ようやく城にたどり着いたときには二人はさすがに疲れを感じていましたが、(主に王子が)探究心のほうがはるかに勝っていましたので、そのまま城内に入ることにしました。

「100年も使われていない割にはきれいなものだな」
あたりを見回しながら、王子が言いました。
「魔法の気配がしますね」
と、お供の青年がそれにこたえます。
「魔法で時を止めてしまっただけなのか。でも何のために。それに、万が一魔法が解けたときに人体に影響はないのか・・・」
王子が自問自答しながら、思考の渦に身をゆだねかけたそのときです。

「王子、こちらへ。この城の鍵であろう姫君が眠っていらっしゃいます」
そう声をかけられて、王子はお姫様の部屋へと入っていきました。
豪華なベッドには一人の少女が眠っています。目覚めたらかわいらしく笑いそうな寝顔をしていましたが、王子は興味がなさそうに嘆息するのみでした。
「これが元凶か」
その身もふたもない言い方に反応してか、突然お姫様がピクリと動きました。
それにお供の青年が気がつき、おや、というように片眉をあげます。王子も目の端でそれを捕らえましたが、気にすることなく続けました。
「女神にも匹敵する美しさと聞いていたが、まるでピクシーだな。ふん、出回っている噂の真相など、こんなものか」
「ひとまず、男心を捉えて離さないことはありませんし、目にかけたからといって石にもなりませんね」
お供の青年もさりげなく失礼に同調します。更にピクピクと動くお姫様。
「とっととこの部屋を調べて他に眠っている人間のところに行こう」
王子はあくまでも冷静でした。そして研究熱心でした。
部屋を調べて魔法の気配の種類を探ったり、なんとか眠っている人間を解剖できないものかと思案していると、おもむろにあることを思い出しました。
「そういえば、愛する者の口付けで目覚める、ということだったな」
お供の青年はいやな予感に包まれます。
「・・・愛する者・・・」
「姫君の噂の真相がこれだ。この話も全くのデマだろうが、やってみる価値はある。恋愛云々に興味はないが、研究対象としての興味は十分にあるからな。言い方を替えれば、これも一種の愛だろう」
強引すぎる屁理屈に、青年は眩暈を覚えてしまいます。サンプル採集のためのこの節操のなさはどうしたことでしょうか。教育方針の誤り・・・という言葉が浮かびましたが、今更彼にはどうすることも出来ないのでした。

ベッドには、静かに横たわるお姫様。
そこに、美貌の王子が歩み寄ります。多少オーラが黒いのに目をつぶれば、そこはかとなく甘いムードが漂う気がします。
そうして二人の顔が近づき、愛の(?)口づけがなされる瞬間。


「っっこのエロおやじーーーー!!!」
勇ましい怒鳴り声を上げて、お姫様は目覚めました。
王子はわずかに目を見開いて驚いた表情をしましたが、それもすぐに隠してしまい。
「・・・ますます女神から遠ざかったな」
と不穏につぶやくのでした。


お姫様は100年眠る、という魔法が切れて自然に起きてきました。ただしばらくは体が動かなくて、二人の(無意識の)悪口を聞く羽目となったのです。
「まったく、何なのよ!いきなりやってきて失礼なことばっか言って!!よりによってピクシーですってぇ!?男を石にするなんて、あたしはメデューサかっつーのっ!」
鼻息荒くまくし立てる様子に、王子は不愉快げに一刀両断しました。
「うるさい」
「あんた達が言ったんじゃんか!しかも研究対象って!!」
「ピクシーみたいなのは本当のことだし、ここに来たのは興味深い調査結果が得られそうだったからだ。どうでもいい噂がたくさんあるが、中には真実もあったからな」
王子は城中が眠りについていることを挙げて言います。
「それはあたしのせいじゃないもん。魔法使いが…」
と言いかけて、お姫様はあることに気づきました。
「あなた、口が悪いから腹が立ってて気がつかなかったけど…若いんだね!しかもよく見ると綺麗な顔をしてる」
「自分の顔にも才能にも、不自由したことはないもので」
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