crazy for YOU
□ペナルティー
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和希「……あれ? 南野じゃね!?」
唯「──ゲ」
もう日も沈んだ19時過ぎ、母親から買い物を頼まれた唯は一人商店街まで買い物に来ていた。
そこでばったりと和希と出会ってしまったのである。
和希「ちょ、おい! ゲってなんだよゲって!」
唯「……他意はない。 っていうか、また煮干し臭いんだけど」
和希「お!? 分かるか!? さっき和希くんスペシャル(※第4話参照)の新作作っててよ」
唯「まだやってんの?」
和希「今度のは煮干し10倍だぜ!」
唯「…………アタシ、帰るわ」
和希「は!? いや、ちょ──」
和希は物凄い勢いで去っていこうとする唯の、パンパンに膨らんだビニール袋を奪い取った。
唯「……盗っ人?」
和希「は!? いやいや! 送ってこうと……!」
唯「なんで?」
和希「なんでって……一応女だし、夜だし、あぶねーだろ」
少し照れ臭そうにそう言う和希に対し、唯はこの場に似つかわしくない程の冷めた視線を送った。
唯「…………」
和希「な、なんだよその目はァァア!? 俺だってこう見えて空手茶帯なんだぞ!?」
唯「そういう台詞は黒帯取ってから言いなよ」
和希「〜っ! とにかく行こうぜ!」
唯「……まぁ、ありがとう」
こうして二人は、気まずさからか全く会話0の状態で歩き出した。
よくよく考えればこの2人が絡むなんて事そう無かったのだから、しょうがないだろう。
そんな状態が10分弱も続いた頃、
唯「……アタシさ」
めずらしく唯の方から口を開いた。
唯「はるひと真琴が楽しそうなら、それでいいんだ」
和希「……へ?」
突然の言葉に、和希は対応しきれずただ唯がその場で立ち止まったから、それに習って足を止めた。
唯「8年前がどうとか、そんなのいらないよ」
和希「は……8年前……?」
唯「……もしかして覚えてないわけ? 矢吹が変にキレながら望月に言ってたこと」
──8年前もそうだった……そんなに『桜華原』が憎いの?
和希「え、あれドラマのワンシーンじゃ……」
唯「……相談したアタシがバカだった。 ごめん」
和希「はぁ!? いや、いやいや! 言えよ最後まで! 南野はただでさえ黙り込むんだから吐き出すとき吐き出さねーと爆発するだろ!」
唯「……」
和希「ほれ」
唯「……今のままが、良いと思う。 なんかさ、望月とかの様子見てると崩れそうで」
和希「あー、確かにな、俺もなーんか違和感あって千架に聞いたんだけど……さ」
唯「秒殺されたと」
和希「うっす……。 あ、あと変と言えばはるひもだ! ルート決めの時、なんかボーッとしてて──」
唯「斎藤……あんた」
和希「あ?」
唯「意外と見てんだ」
和希「いや、まぁ」
唯「じゃ」
唯は束の間小さく笑みを見せると、和希の持っていた袋を取り上げた。
唯「アタシの家、ここだから」
そして【南野】と表札の掲げられたら一軒家の門をくぐると、後ろを向いたまま手を2、3度振り玄関に入っていってしまった。
和希「……やっぱ変な奴」
和希はそんな背中を見送ると、ひとつ溜め息をつき、自宅まで走り出した。
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あとがき