庭球短編
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「おはよーさん、生徒会長殿」
手が出なかった私を誰かほめて欲しい。
ノア2
「え、何きみ」
「何、って仁王じゃ。仁王雅治」
「そんなことは知ってる。え、挨拶するほど仲良かったっけ?」
「そんな事言いなさんな。昨日の夜会ったじゃろ」
忘れていたのではない。
できれば忘れていたかったのだ。
校門をくぐって直ぐ、私はなぜか目の前の仁王雅治に挨拶をされた。おはよう、と。
それはいたって普通だろう。それに、私は生徒会長という役柄上、挨拶をしてくる人も多い。
しかし仁王は違う。ただのクラスメイト。今まではすれ違っても目を合わせることすらなかったのに何だいきなり。
しかも昨日の今日で。
「ああ、そうだね。で?って言う」
「で、か。そうじゃな、一緒に行かんか?」
「は?何処に」
「教室。朝練も終わったし、お前さん教室行くんじゃろ?」
確かに間違ってはいない。
朝練の終わったクラスメイトと途中でであって一緒に教室へ行く…。悪いことじゃないし、特に珍しいことでもない。
相手がこの人でなければ。
「なんのつもりか知らないけど、生徒会室寄るから」
「俺も行くわ」
「……勝手にすれば」
俗に言うツンデレではなくって、ただ純粋に相手をすることに疲れた。
もうこの人には何を言っても通じないのだろうと割り切ったともいえる。
ついてくるだけなら良いか。
…………待て、よくない。
「やっぱ来ないで」
「何で?」
「……ファンが居るでしょ、君には」
「…ああ、そん事じゃったら気にせんでええ」
「…ふうん、何で」
「居ないと思えばえーじゃろ」
……だめだこいつ。
はあ。またため息が漏れた。
どうやら私はこの人に気に入られてしまったらしい。
コート上の詐欺師、仁王雅治に。
「面倒臭い。付いて来ないで」
「……ええんか、昨日んこと言っても」
「……勝手にしろって言ったでしょ」
くく、 癪に障る仁王の笑い声。
「勝手にしとるじゃろ?」
……うざい。
ノア2
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