短編2

□あなたと目をとじるの
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太陽が眠る。
木の葉と葉の間から、ぽろぽろと注いでいた太陽の光がだんだん、オレンジ色になり、だんだん、それに青が混じり、だんだんと、だんだんと、太陽が姿を消してゆく。私が横になって眠っているベンチのすぐ隣には、茶色や赤やオレンジや黄色の葉っぱが、山のように盛られている。太陽の光をまだかすかに受けるそれらは、とってもふわふわしていて柔らかそうに見えた。公園の奥に設置されている時計に目をやると、私が待つ時間にあと20分届かないほどであった。もう一眠りしてしまってもいいんじゃないか。ぼうっとする意識の中、ふわふわと私を誘う枯葉たちをみていると、どうしようもなくそこへ身体を委ねたくなる。さっき見た限りではこの公園に私以外の人はいないし、そうだ、もう、やってしまおう。私はもぞもぞと身体を動かしてベンチから降りると、覚束ない足取りで枯葉の山へ近づいてそのまま、そこへ倒れこんだ。気持ちいい。枯葉のにおいが心地よい。オレンジに染まった辺りをうっすらと眺める内に、私は眠りに落ちていった。


「梛」

それからどの程度時間が経っただろうか、私の待っていた人の声が私の意識を呼び戻す。んん、と掠れた声で返事をし、重たい瞼を持ち上げる。まだはっきりとしない視界の中で信さんが、私の隣に座ってうっすら微笑んでいた。

「そろそろ帰ったほうがいいだろう」
「ん……信さん」

あと5分……。頭の中でそう訴えながら、私は信さんに手を伸ばす。気づいた信さんも、私に向かって手を差し伸べてくれた。私を捉えた睡魔が未だ私を離そうとしないので、私は起きる気などない。ただ、信さんに触れたいと思ったから手を伸ばしただけだ。信さんの、少し皺のある大きい手に触れる。手のひらが乾燥していてあまり感覚はわからなかったが、信さんの手に触れていることが分かっただけで安心感に包まれた。そしてそのまま、再び眠りに落ちる。信さんが、目を閉じた私に呆れたように名前を呼んだのがわかった。けれど、辺りが暗くても、信さんが隣にいるならば何にも怖くない。

暫くして目が覚めると、すっかり日は落ちて、時計も7時をさしていた。慌てて信さんのほうをみると、今度は信さんが眠っている。私の手をしっかり握ったまま、信さんが規則正しく呼吸をしていた。私はなんだか無償に嬉しくって、信さんと繋がれている私の手に、ぎゅっと力を込める。このままどれだけここで寝ていたって構わない。信さんの隣なら、何にも怖くないから。












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