時計の秒針が正確に時を刻む音が部屋に響いていた。大人が二人か三人座ったらいっぱいになってしまうほどの大きさのソファに、僕と梛ちゃんは体を沈めている。事務所にある少し古い型のテレビでは、梛ちゃんが近くのレンタルビデオショップで借りてきたDVDを流していた。それは少し前に話題になった恋愛ものの映画で、梛ちゃんは当時どうしても観たかったのだけれど、時間がなかったので観られなかったそうだ。彼女は駅前のファミリーレストランでアルバイトをしている。そこはあまり人がおらず、いつもぎりぎりまでシフトを入れているらしい。やっととれた休みにずっと観られなかったものを観ようと思ったそうだ。なぜそこで僕も一緒なんだろうかと多少不思議に思ったけれど、僕も大概暇している。だから、快く引き受けたのだ。というより、彼女と恋人という関係になってから1ヶ月ほどたつのにいまだキスすら一度もしたことがないって、どうなんだろう。まあ梛ちゃんみたいな若い子の考えることはわからないのだけれど。ああ、もう僕もおじさんだな。あらためてそう思い、苦笑いをこぼした。 「梛ちゃん、面白い?」 「あ、はい」 話しかけてから気づいたのだけれど、今日の梛ちゃんはどこか挙動不審ではないだろうか。事務所に来るなり僕になにか言いかけてやめたり、僕がお茶を注いでいるときに凝視してきたり、今みたいに、話しかけると妙にあたふたして顔を真っ赤にしたり。かわいいからいいけど。 「何、今日変だね。どうかしたの」 「は、え、いいえ別に」 ガラガラガラガラ、ぴしゃーんぴしゃーん。きたか、ここでサイコ・ロック。 「ふうん、そう」 「続きみましょう、続き」 「うん」 パーカーに手を突っ込んで、少しざらついた勾玉を転がす。さて、どうしたものかな。梛ちゃんはあわててテレビのほうへ向き直る。無理矢理サイコ・ロックをはずしても良かったのだけれど、それにしても心当たりがない分どうしようもない。僕は梛ちゃんと同じように、テレビ画面に目をやった。 「な、るほどう、さん」 「ん?」 僕の名前を呼ぶ梛ちゃんの声が震えていた。何事かと思い彼女のほうへ目を向けると、梛ちゃんはうつむいている。どうしたの?問いかけると、梛ちゃんは顔を真っ赤にした。 「き、キスしてください」 「……」 僕は何も答えない。その空気に耐えかねて、梛ちゃんはさらにうつむいた。 「ご、ごめんなさい……なんでもないです」 長い髪の毛に触れて、梛ちゃんの細い肩を抱きしめる。馬鹿みたいだなあ、この子は。本当にかわいい。シャンプーの甘い香りがした。耳まで真っ赤な梛ちゃんを一度、しっかりと見つめてからキスをする。 「どうかな、このまま一気に階段上っちゃうってのは」 「っ、きゃ、却下です」 三段飛ばしで駆け上がる 悪くないと思うんだけど |