短編

□ひかり
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「やっほう真宵ちゃん、遊びに来ちゃった」

「あー!梛ちゃん!」



久しぶりに倉院の里に訪れてみると、あたりはすっかり雪で真っ白になっていた。
真宵ちゃんはにこにこしながら私の手を握ってぶんぶんと振る。
本当は成歩堂さんにでも会いに行こうかな、と思ったのだけれど、「捏造」の噂を聞いていた私は行くに行けなかった。
成歩堂さんには数年前に出会い、母を助けてもらった。
お金が足りなかった私たちにも迷うことなく手を差し伸べてくれた成歩堂さんには感謝してもしきれない。
出世払いでいいよ、なんて言いながら笑った成歩堂さんに、今こそ払わなければ。
お金を払っていない事実に私は納得がいかず中学生だったにも関わらず、成歩堂さんの手伝いをしたものだ。
懐かしいけれど、その懐かしさが逆に胸をぎゅっと締め付けた。



「家、上がってくよね梛ちゃん!」



真宵ちゃんはあの時よりもぐんと大人びて可愛くなった。
私は真宵ちゃんのいっこ上だ。



「あっ、そうだ!梛ちゃん、今日はお客さんが来てるんだよ」



真宵ちゃんはそう言ってあの頃と変わらない何かを企んだような目で私をみる。



「お客さん?私帰ったほうがいいかな」

「違う違う!梛ちゃんが居なきゃ始まらないよ!」

「…ふうん、私が?」

「はいはい!入る入る!」



半ば強引に真宵ちゃんは私の背中を押した。
倉院の里には、何度か成歩堂さんたちとも来たっけな…。



「おーうい、お客さんが来たよ!」



障子の向こうにむかって真宵ちゃんはそう大声を出す。
すると、向こう側からは「んー?」という気だるそうな返事が聞こえてきた。
あ れ、この声。



「何だい真宵ちゃん騒がしいな……」



ああそうだ、この声、この声は、



「じゃじゃーん、梛ちゃんです!」



真宵ちゃんががたりと障子を開ける。
座布団の上に座っていたのか、立ち上がりかけているその人の目が見開かれた。



「…梛、ちゃん?」



「へ、は…」と言葉になっていない声が思わず漏れた。ずっとずっと忘れることの出来なかった人がそこに居るのだから。
真宵ちゃんが横で「ふふん」と満足気に笑う。



「……梛ちゃん、そのバッヂ、は…」

「えっ、バッヂ?」



成歩堂さんの言葉に真宵ちゃんも私を見つめた。
さすが成歩堂さんと言うべきなのだろうか、直ぐに気づいてしまった。



「弁護士に…なったんだね」

「は い」

「えええっ!べ、弁護士!」



真宵ちゃんも驚きながら私の胸元に光る金色のバッヂを凝視した。
成歩堂さん私、成歩堂さんを追いかけて弁護士になったんです。



「そっか……梛ちゃん、弁護士に…」

「出世払い、なんでしょう?」

「そんなこともあったっけ…」



成歩堂さんは今までに見たこともないくらい悲しくて泣きそうな顔で笑う。



「…嘘だよ。ずっと君を待ってた」



成歩堂さんの胸元にはもう光ることが無いかもしれない光を、今私は持っている。









ひかり、







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