短編
□シンゾウ
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「信さん」
飲んでいた紅茶のカップをデスクに置いて、信さんは私のほうを見る。暖房の生暖かい風がゆらりと当たった。
身体をソファに投げ出して、背もたれから顔を覗かせる私を信さんはじっと見ていた。
「れーじ君は?」
「ああ、怜侍はまだ学校だよ」
そっか。呟くと、信さんはまた机に向かって、書類にペンを走らせる。
横をみると、ソファに信さんのコートがかけられていた。もぞもぞと動いてそれを手繰り寄せる。
ちらりと信さんがこちらをみて、再び仕事に戻る。ちょっと寒いから、信さんのコートを抱きしめると信さんのにおいがした。
「信さん」
「何かね」
じんわりと心に信さんの声がしみる。信さんの全てがいとおしくてたまらない。
私が学校に行けていないことを信さんは知っている。行かなければと思えば思うほど、身体が動かなくなる。
こうやって信さんがデスクワークをしているときは、傍にいるときは、生きている実感がわく。
まぶたが重い。うとうとしながら、私はじっと信さんを見つめた。
さっき信さんの名前を呼んだことはもう忘れていた。信さんの声が聞ければ、それでよかったから。
「信さん」
「そこで寝ると風邪をひくよ」
「うん」
カレンダーに目をやると、明日から3日間赤ぺんでマルが打ってある。明日から3日間、信さんは盾之くんと調査にいく。
私はついていけない。明日も、明後日も、明々後日も信さんに会えない。だったらいっそ、
「信さん」
「ああ」
「ころしてください」
私の心臓はすべて信さん次第。あえないならころしてよ
きっと救われる
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