□うつつ
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 目覚めると既に辺りは暗く、虫の声が聞こえた。

意識ははっきりしていて傷口が疼く。

痛みを堪えながら寝返りを打って、気配を完璧に断って椅子に座るカカシをみて私は笑った。

「何笑ってんの? 真秀」

ちょっと怒ったような低い声を出したって私はちっとも怖くなんてなかった。

「カカシが私より具合悪そうな顔して座ってるから」

重ねて笑う私をカカシが眉を上げてにらんで見せるが、やっぱり少しも怖くなんか無かった。

「電気つければ良いし、気配断つこともないのに」

どちらも私に配慮してのことだろうが、これだけ近くにいれば気が付くし、傷と体力回復の為に眠る私に、明るいも暗いない。

カカシにもそんなことは分かっているだろう。

「お帰りって言ってくれないの? カカシ」

ねだるとカカシは、ふう、と息を吐いて殺していた気配を緩めて耳に心地良い柔らかないつもの声で労ってくれた。

「お帰り」

「ただいま」

「もうね、知っていても分かっていてもなんでこう、毎度毎度真秀が帰って来なかったらどうしたらいいんだって思うんだけどどうよ?」

「どうよって言われてもさ……私だって毎度毎度目の前真っ暗になるよ、カカシの危険な状態知るたびに」

忍の家系に生まれ、物心付く前から忍になるように育てられ、早くにアカデミーを出され任について来た。

大切なものを失うことも、いつ失っても不思議ではないことも、己が大切な誰か置いて逝くかもしれないことも良く分かっているし、経験として知っている。

それでも不安で辛くて悲しくて痛くて堪らない。

痛いことは良いことだと思うけどこの痛みは大嫌いだ。

「カカシが好きだからだと思う」

滅多に言わない好意を表す言葉にカカシが驚いたみたいに私をみた。

「カカシが好きなの」

思ったより、必死な声になっていた。

「俺も好きだよ、真秀」

「こっち来て?」

椅子とベッド。身動きのほとんど取れない私には近くて遠い距離だ。

腕を伸ばしてカカシを求めると長い指が簡単に私の指と組み合って絡んだ。

こうやって、任務も何もなくカカシに触れるとそこからビリビリと痺れて心臓が鳴る。

その度に、好きで好きで仕方がなくて、失くしたくなくて、失くすかもしれないことがすごく恐ろしくなった。

「カカシ」

キスしたい。

言わなくても察してカカシがベッドに空いている手をついて屈んでくれた。

ギシリと増えた重みに軋む音がして、顔を覆う布をカカシが下げた。

私は少し身体を起こしてカカシにしがみ付いて、ちゅ、と唇で触れた。

それこそ顔中、夢中になってキスをした。

されるがままになっていたカカシも仕返しみたいにキスをたくさんくれた。

「カカシ、カカシ……」

やがて深く合わさって呼吸さえ奪い合う狂暴になったキスに大きく胸を喘がせながら、もっと先が欲しくて、カカシが欲しくて、名前を呼んだ。

「だーめ。怪我治してからね」

あやすようにカカシが髪を撫でてくれるけれど嫌と首を横に振る。

「俺も我慢するから、真秀も我慢。ね?」

こっちも辛いのよ、とカカシが苦笑いする。

私はカカシの背にすがっていた腕を解いてゆっくりベッドに背をつけて力を抜く。

「ん、良い子」

乱れた布団を戻してカカシが私の頬を撫でた。

「カカシ、任務は?」

「んー? 真秀の着いてた任務は達成されたよ。俺の任務なら明日の夜まで無しだ」

「ありがとう」

曖昧な私の言葉の先を取るのがカカシは上手い。

「私の為に任務入れなかったの?」

「だって気になっちゃうでしょ? それに俺、しばらく融通利くのよ」

高ランクの任務を安心して任せられる上忍のカカシがどうして、と私の顔に書かれたらしく、「なんで?」と問う前に答えが返って来た。

「上忍師になったの」

「嘘」

「何その即答?」

「不合格ばっかり出してたのはカカシだよ」

「うん。そうなんだけどね。ちょっと、腹の立つ子供だったよ」

カカシに腹の立つ、なんて言わせるなんてどんな子なのだろう。

「会いたいな」

「怪我治したらね」

少し口元を緩めてカカシが言う。きっと合わせたいと思っていたんだろう。

「うん、カカシ大好き」

「今日は大盤振る舞いだねえ。うれしいけど」

「一生分言った気がしてきた」

「もっと言ってよ、真秀。倍にして返すから」

そう言ってカカシが笑う。

私はその笑顔がみたくてまた、好きだと告げた。




おしまい。
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