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□恋心
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仲間が店に集まり始めた夕方はまだ西の空の端が明るかったが、外はもうすっかり日が落ち暗かった。
空を見上げ星座を読むのは方角を把握する為の癖でつい見上げてしまう。そうしているうちにサクラがふらふらする、と言いながら歩き出したがその足元は言うよりしっかりしていた。
「せーんせーい、揺れてる〜」
「はいはい。こっちおいで」
だらしなく俺を呼ぶ、笑顔満開酔っ払いサクラは軽快に寄って来た。
「掴まってなさい」
ポケットに入れたままの腕にサクラがぶら下がる。子供の頃でさえ、こんなふうに身を寄せて甘えることをしなかった子なのに。酒の力とは偉大だ。
「瞬身?」
「いいけどお前吐くよ?」
「……今日は遠慮しておくわ」
大人しく腕につかまっているサクラの髪を無意識に撫でようと、わずかに上がった手を握り締めて留める。
商店街を抜けると人通りも疎らで背後の喧騒が少し遠くなった。サクラの家へ足を向けると腕がぐっと引っ張られた。
「先生」
今日は帰りたくないな、なんて言われたらどうしよう? と湧き上がるあらぬ妄想を押し込めながらあくまで冷静に答える。
「何?」
「私の家、そっちじゃないの」
「あれ、引っ越したの?」
「うん。私だけだけど。こっちよ、先生」
俺の腕を掴まえたまま、サクラが歩き出した方にはくノ一によく貸し出されるアパートが何棟かある。
「ねえ、サクラいつから一人なのよ?」
「ナルトが自来也様と里を出た少し後から。師匠のところで修行を始めたら実家に居るの、面倒になちゃって」
昔は子供であり、女であるサクラの扱いに困ったこともあり、ナルトやサスケ以上にサクラのプライベートを知らない己に思い当たる。
特に彼女自身ではなく、彼女の周辺の事情に疎い。
俺と彼女の間には先生と生徒という関係以外はっきりとしたものはなにもないのだ。
ふらっと足を止めながらサクラは歩いたが客観的には真っ直ぐ歩けている。しかしそれを指摘せず、俺の腕に身を寄せるサクラの柔らかさを味わう。
「どの辺なの?」
「そこ。もう見えてるわ。二階」
「階段登れそう? なんだったら抱っこしてあげようか?」
「もうっ! そんなことばっかり言うんだから。からかうのは止してよ。結構です!」
命綱のようにしっかり握っていた俺の腕を放してサクラが駆けた。