□白い地図の軌跡
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 「水遁・水陣壁!」

凛とした声が閑散とした火影の家に響き綱手に報告すべくやって来た新生第七班の面々はそろってそちらに目を向けた。

何かに追われるように駆けてきた中型の犬程もある大きさの炎を纏った鼠が水の壁に包まれ、水圧に吹き飛ばされた。

一体何事だろうと状況を見守る七班の直ぐ側で廊下に倒れ伏し、もがく鼠の急所に放たれた苦無が吸い込まれる。

突き刺さると鼠の姿は跡形も無く消え去りカランと音を立てて苦無が落ちた。

「火影邸にて火鼠を退治しました。映画館に火と風の属性を感じます。早めに対処してください。それから大門の方へ七匹走っています。里から出さないよう閉鎖をお願いしてください」

無線で連絡を取っているのだろう、マイクに向かって状況を報告しながら足早にやってきた黒い髪、白い瞳のくノ一が落ちた苦無の持ち手に人差し指を引っ掛け持ち上げると七班に向かって挨拶をする。

「お疲れ様です。おかえりなさい。5代目様なら執務室ですよ。立て込んでいてひとは少ないですけれど」

見るものを安心させるような、穏やかな気分にさせる笑顔でそう言った彼女はふいに大きく開いた明かり取りの
窓をみて警告を発する。

一斉に回避行動を取る忍たちの足元に鋭く太い針が無数に突き刺さり、とっさに彼女が苦無を投げつけるか何か固い音がして弾かれてしまったようだ。

ざざっと彼女の無線に連絡が入り、マイクを口元に近づけ応答する。

「ごめんなさい。一匹逃がしました。体が固いみたいです。木の葉茶通り方面へ向かっているので早急にお願いします……はい。すみません。……え? だからすみませんって。そもそも不用意に触らないでって言ってあったのに! こっちだって昨日からずっと白眼使い通しですから同じです。あーもう、分かりました、終わったら一杯奢りますから働いてください…ってみんなに奢るなんて言ってないです。そっちの方が高給取りじゃないですかっ」

美術品の鑑定、修復、地図製作を任務とする特別上忍。

彼女がまだ少女であったころを思い出してカカシは人知れず口元を緩めた。

内向的だった少女が今や先輩にからかわれても堂々と言い返し、白眼を活用して職務についている。

その上あの笑顔。自分を守るように手を組んで俯いていた様子からは到底想像出来ない成長振りだった。

「何があったの? 真秀ちゃん」

「報酬として受け取った絵巻に仕掛けがしてあったようで、うっかり広げてしまったら里中に描かれていた妖怪が散ってしまって昨夜から退治に追われているんです。個々の力は大したことないんですけど数が多くて時間がかかっています」

白眼を持つ彼女が妖怪を探し、他のものが討っているのだろう。

生まれ持った瞳力とはいえ、一晩中使って尚続行中となれば負担も大きいはず。

「真秀ちゃん、これあげる。任務終わったら使うといいよ」

カカシがポーチから取り出したのは、綱手特製の眼精疲労に効く冷湿布だった。

「ありがとうございます」

実はちょっと頭痛がしてきたんですよ、と笑う真秀にカカシも笑みを返す。

「気をつけて。またね真秀ちゃん」

「はい。失礼します」

妖怪が攻撃を仕掛けてきた窓からひらりと飛び出しかけていく真秀の心中は穏やかでいられなかった。

(またね、って何?! またねって!)

数年前、共に任務について以来、軽い挨拶を交わすようにはなったがそんなことを言われたのは初めてだ。

カカシにはただの挨拶だったのかもしれないが、未だ想いを寄せている相手の言葉に戸惑ってしまう。

(あーもう、わざとか。からかわれているのか)

瓦を蹴って走りながら、時が経っても変わらない自分の想いに苦笑を零す。

不思議と好きになってもらいとは思わないが強くなった己をみてもらいたいと思う。

こういう気持ちはなんていうのだろう? そんなことを考えつつ、索敵の為に白眼を発動する。

気持ちまで見透かすことが出来たらいいのにと思う反面、そうしたらきっとつまらないだろうな、と真秀は笑った。



おしまい

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