□白い地図の道標
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 「紅先輩。どうしよう? 私、口聞けるかさえ微妙です」

黒い髪、白い瞳の特別上忍が手を組み合わせたお祈りポーズで紅をすがるようにみる。

「真秀、しっかりしなさい。任務なんだから」

「分かってますけどもう、心臓破裂しそうで……」

がっくり項垂れる真秀を見下ろしながら紅は己の担当する下忍の少女を思い出して、あの子の内気は遺伝的なものなのかしら、とまばたきをした。

「大丈夫よ。真秀の言動がおかしくても、何か間違えたとしてもカカシは何とも思わないだろうから」

「分かってますよ、それは。私が嫌なんです!」


惚れた相手の前で失敗などしたくない。

出来るなら良いところをみせたい。

しかしそう思うことによって焦り、うまくいかなくなるものだ。

「普段通りにしていなさい。真秀は上手く自分の能力を活かして仕事をしているじゃない。あんたの名前、知らないひとなんていないわ。もっと自信を持ちなさい」

教官が板についてきた紅の言葉に真秀は落ち着いて来てはいたが、組んだ手はそのままだ。

「なんですか、曾祖父が日向家の分家の人で私自身は末席の末席で柔拳も使えないし、何かしでかしましたか、私」

この過剰に己を卑下するところもヒナタに似ている。
遺伝に加えて育つ環境も似ているのかもしれない。

「ほら、いい加減にして背筋伸ばす!」

紅が軽く真秀の背を叩くと同時に猫背の上忍が扉を開けて入ってくる。

「ひゃあ!」

叩かれた事と話題にしていたカカシの出現に驚いた真秀の悲鳴にカカシがうろんな目を紅に向けた。

「なーに、紅。後輩いびり?」

「そんなわけないでしょう。この遅刻魔」

「今日は遅れてないでしょうよ」

「5分前集合を心掛けなさい。言っておくけど3分過ぎてるわ」

「厳しいねえ」

「カカシが緩いの」


「緩いっていうか不可抗力? 運命が俺を放っておかないっていうやつよ」


「カカシ……私の幻術で逝かせてあげるわよ? いつでもね」


印を組む真似で両手を構える紅から視線を外し、カカシは真秀をみる。

「こんな先輩持つと大変でしょ? 真秀ちゃん」

二人のやり取りをオロオロ見守っていた真秀は水を向けられて余計に慌ててしどろもどろになって答えた。

「いえ、先輩にはいつもよくしてもらって……面倒ばかりかけて申し訳なく……」

「うーん……テンプレ?」

無表情にカカシが言い、真秀の頬がかあああ、と赤く染まる。

確かに先輩に対する極ありふれた、適当に交わすためのような言葉であったが元々口下手な真秀がカカシに話し掛けられてまともな返答など出来るはずがなかった。

「どっちがいびっているのよ?」

「えー、だって珍しい可愛らしさだよね、特上の娘にしては」


ようやく目が覚めたような顔になって言ったカカシに紅が答える。


専門職に付き、その道のエキスパートと言える特別上忍には個性的な人物が多い。

真秀のように内気で引っ込み思案な者は少ないのだ。

「それこそ個性だわ。任務には差し障りないんだからあんまり弄らないでやって」

「はい。任務はこなします。ご迷惑にならないよう頑張りますのでよろしくお願いします」

組んだ手にぎゅううっと力を込めて真秀が己のつま先を見ている。

「ん、こっち向いて。別にとって食べたりしないから」

「はい」

おずおずと顔を上げた真秀にカカシは笑顔で語りかける。

「俺は真秀ちゃんのサポートする為に組むことになってるの。だから真秀ちゃんのやりやすいようにしたら良いんだよ。俺もこういうのあんまりやらないから指示お願い」

「は、はい。よろしくお願いします」

励まされ、生き生きとした表情になった真秀をみて紅はふと口元を緩めた。
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