CP

□笑う
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 新しく季節が巡り、里を吹き抜ける風も穏やかになった。

中天の太陽の日差しを背に受けて試験開始の合図をした彼女は込みあがる懐かしさに自然と笑みを零した。

腰に下げた二つの鈴を指先で弾くと涼やかな愛らしい音を響かせる。

先生はどんな気持ちだっただろう、と遠い昔に思いを馳せながら四方八方へ意識を向けて散開した子供たちの気配を探り捉える。

私はここよ、と示すように彼女はわざと鈴の音を鳴らして歩いた。

ふいに襲い来る背後からの蹴りを受け止めるわけでもなく交わすわけでもなく、いなして地を蹴った。

陽光を背にした気合一閃、チャクラの集中した踵が地面を抉り、柔らかな土が霜柱が立ったようにひび割れ盛り上がる。

数時間前初めて会ったときの彼女の様子や柔和な見た目にそぐわない力に子供たちの背に冷や汗が流れる。

確かにこれは殺すつもりでかからなければ、彼女の持つ鈴を手に入れることは叶わないだろう、と。




 「どうだったのサクラ?」

いつの間にか、何処からとも無く自然と並んで歩き出したカカシがサクラにそう問うた。

書類を提出し火影の家を出て間もなく現れるとは、図っていたのか偶然か。

情報の伝播する速さは全力で駆ける忍の足に勝る。本人がそれを求めれば尚のこと。

「合格って報告書に書きました」

早口で抑揚の少ない言葉を発してからサクラはしまったと思った。

私は未だ彼に心配をされてしまう存在なのだ、と感じた苛立ちを表に出してしまったからだ。

合格させました、って笑顔で答えておけば良いところなのに。イライラとサクラが眉根を寄せる。

「そうじゃなくてね」

教え子の素気無い返事に苦笑して、彼女の心中を察したかのように否定して続ける。

「お前がどう思ったのか聞いてるの」

サクラは足を止め、長身の上忍師を見上げた。

下忍の選抜はすべて上忍に任される。個人の判断を信頼するということだ。自分の判断に何か誤りがあったのだろうか。

「何か問題でも?」

さっきより、冷たい声が出た。己を認めて貰えずに拗ねる子供みたいだと思う。

ああ、駄目だ。サクラは心の中で唱えた。なんて矮小、なんて狭量、なんて卑屈! 何を甘えているのだろう。

「ごめんなさい。先生」

「何か嫌がらせされた? オレみたいに」

おどけた調子でアカデミーの教室の扉に黒板消しをしかけたことを当てこすってへらりとカカシが笑う。

昔ならこの辺りで、その大きな手が頭を撫でてくれたところだ、とサクラは考えてため息を吐いた。

しゃーんなろー!

「されてないわよ。とっても良い子だったわ」

ことさら明るい声でわざとらしく答える。

「演習場ぼっこぼこだって聞いたけど。マジびびりしてたってさ」

「私もカカシ先生にマジびびりさせられました……殺せる加減で手を抜いたのよ。怖がってもらわなきゃ困るわ」

ふんっ! と胸を反らしたサクラが気持ちを落ち着けるように息を吐いて、声のトーンを変える。

「あのね、先生。あの子達私が教えなくても木の葉の忍の生き方を知っているのよ。里が何度も窮地に追い込まれた中で育って来たんだもの。私とは違うわ」

サクラが生まれた頃は九尾の騒動やうちは一族の件など何ごともなかったわけではないのだが、大きな戦もなく、街が壊滅状態になるようなこともなかった。

比較的(表向きには)里が平和である間に育ったサクラたちの思考があまり外側に向かなかったのも仕方がない。

「悪いことじゃないよ。子供たちにはこの里で平穏にゆっくり育ってほしいでしょ? ずっとそれを守ろうとして来たんだ。そんなふうに考えないでよ、サクラ。それにあの子たちはお前たちの背中を見て学んだんだよ」

言われてサクラの脳裏に同僚たちの顔が次々と浮かんでは消えていく。彼らの成長は目覚しく、今や全員が上忍で自らの道を生きている。

自分だって負けてはいないがたまに不安になるのだ。この道が正しいのか。この道が何処を辿るのか。

「俺の信じるサクラを信じてよ。お前は俺の最初で最後の可愛い自慢の弟子だ」

「先生、もう上忍師しないの?」

「お前たちで十分。俺には向かない仕事だよ。子供の扱いなんてよく分からないしね」

確かに今思えば紅一点であったサクラに対してどう扱えば良いのか困っている節があったような気がする。

サクラは微笑んでカカシを見上げた。

「先生は良い先生だったわ。私は、先生と同じことをあの子たちに伝えたいと思うもの」

カカシは破顔してサクラの頭を撫でた。

「俺の言葉は俺だけの言葉じゃないことも忘れないでよ、サクラ」

「はい。先生」

サクラに笑顔が戻り、満足したカカシはその場を去ろうとしたが消す気も無い子供の足音にそちらを振り返った。

「サクラ先生。そのひと誰?」

「こちらははたけカカシ上忍。写輪眼のカカシとか、コピー忍者とか、遅刻魔カカシとか聞いた事ないかしら? 私の大事な先生なのよ?」



おしまい

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