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□恋心2
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朝、目が覚める。
窓が開いているせいでカーテンが大きく揺れて膨らんでいた。
窓を、いつ開けただろう?
思い出せない。
いつ、帰って来たのだろう?
思い出せない。
この支給ベスト誰のだろう?
思い出せない。
「あーっ……たま痛いし……」
ベッドから身を起こそうとして頭痛に襲われたサクラはどさりと元の姿勢に戻った。
昨日飲んだ酒のせいだと思い至り、どうやって帰って来たのか考えてベストを探って装備を確かめて、きっとカカシに送ってもらったのだろうと推測する。
巻物の並び、忍具の並び、とても慣れた忍のものだと直ぐに分かる。
手入れの行き届いた苦無の切っ先は軽く触れただけで皮膚が切れた。
刃物の研ぎ方はアカデミーで習ったけれど、サクラたちはカカシにもう一度きびしく教わったし、装備の確認についてはヤマトがカカシ以上に厳しかった。
そのヤマトだってカカシを先輩として慕っているし、はたけカカシというひとからは、優秀な忍の姿だけしか窺えなくてサクラは溜息をついた。
退屈なほど真面目な男だ。忠実な里の上忍だ。尊敬している、先生だ。
わたしにとっては、それだけじゃないけれど、と。サクラは寝返りを打った。
カカシにとって自分はただの生徒でしかないのだろう。あるいは子供なのだ、いつまでも。
「据え膳くらい、食いやがれ」
愛読書から考えてヘテロであるのは間違いない。サクラだって引く手がないわけじゃない。
溜息が、無意識に零れる。
好きだというのは難しくないけれど、この狭い里のなか、振られたらどんな顔して過ごしたらいいのか?
任務だってあるのに、お互い気まずくなるのは避けたいし、カカシは絶対顔色ひとつ変えないに決まっている。
悔しい。ただ、想像しただけなのに悔しい。
想像するならもっと夢と希望に溢れた妄想をすればいいのに、最悪の事態を想定して備えておくとか、こんな場面にまで教えてもらったことが、のさばってこなくてもいいと思う。
天井を見上げて、深い、深い溜息をサクラは吐く。
頭痛に気を使いながら身体を起こしてパックに入った野菜ジュースを啜る。
シャワーを浴びて、着替えをして、それからベストを返しにいかなくちゃならない。
これくらいの装備なら返さなくても簡単に用意できるだろうし、飲みすぎを注意されるだけだろうけれど、会って顔をみたいな、とサクラは思った。
昨日の様子だとたぶん待機任務以外にはついていないだろう。
家を訪ねるか、待機所へ行けば会える。そう思って身支度を整えていると鏡の向こうの首筋に赤い跡があることに気づいた。
「虫……?」
ではないことには、触れた瞬間に分かった。医忍としてそれくらいは分かる。
「痣?」
こんなところ、こんなに小さく、どこでどうやってぶつけたというのか。
「まさか……」
いや、まさか。
繰り返して打ち消す。
しかし記憶はない。だから何も分からない。でも、何もないと思う。だってカカシ先生だから。
服を着替え、サクラはもう一度鏡の前に立った。
スタンドカラーに隠れて痣はみえない。
大丈夫。頷いて、包んだベストを持って家を出た。