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□子犬とワルツ
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早朝、任務のため大門にて軽い打ち合わせをしていた私の背後から響く声に勝手に苦笑が浮かんできた。
「カカッせんせーっ!」
「シ」はどこにいったのよ? と突っ込みを入れたくなる発音で、砂埃を立てて突進してくるすっかりでかくなってしまった教え子を振り返る。
金色の髪と青い目。
まるで晴天の空のような明るさを持つナルトは、その形容にぴたりと合った笑顔で私の懐に飛び込んで来た。
昔は容赦ないタックルだったそれはいつからか抱擁に変わっていた。
正直今のナルトに遠慮なく体当たりをされたら構えていなければ転びそうな気がする。
かといってところ構わず抱きつかれるのも問題だが、周囲の視線は暖かい。
……あるいは、生暖かい。
「先生。ただいま。帰ってすぐ先生に会えるなんて俺ってばラッキーだってばよ」
「はいはい。お帰り」
ナルトの身長は会うたびに伸びていき、気がつくと私を越していた。
背も胸も広くなって腕の太さも手の大きさも比べるべくもなく、170センチ近くある私がすっぽり腕に収まってしまう。
ぎゅううううう、と力いっぱい抱きついてくるナルトに身体を預けられたら、あるいは抱き返せたら、心地良いだろう。
しかし、そんなことは出来ない。
私は師であり、上司だ。
「せんせー太った?」
「太ってないよ。前にお前が抱きついてきたときが痩せてたかな」
そのときは、長めの任務で里を離れ、食事を摂る余裕の無い日が続いていたのだ。
断じて、太ったわけじゃない!
「ふーん。どっちにしろ先生はそんなに柔らかくないってばよ」
誰と比べてるんだろうね、この子は。
朝から、凹むことを言ってくれたものだ。
「忍の彼女は無理だな、みんな鍛えているから。普通の子にしなさい。それから女性に太ったとか、柔らかくないとか言うものじゃないよ。分かった?」
「分かってるてばよ。別に俺は」
「分かったなら離れる! 痛いのよ、馬鹿力」
全て言わせないために言葉を遮り、軽く胸を押し返すと、力任せの抱擁は緩んだが、ナルトの両腕は腰に巻きついたままだ。
わんっ!
足元から呼び声がする。
私の「痛い」という言葉と腕から逃れようとする動作に反応したのだろう。
過剰に吠えたり、噛み付いたりはしないが、命じていた伏せを破って訝しげにナルトの匂いを確認している。
「うっわ! こいつら先生の忍犬?」
5匹の子犬にたかられたナルトが慌てて足を引いたり持ち上げたりするが、子犬たちは一向に足元を離れない。
「ちがーうよ。これからこいつら鍛える任務なの」
「先生が?」
なんで? とでも問うような驚いた口調にため息で答える。
「失礼だね、お前。私は優秀な忍犬使いだ」
「そんなの知ってるってばよ。カカシ先生の忍犬は、俺よりゆ」
優秀、と言ってしまいそうになってナルトが口を噤んだ。
「ははは。確かに索敵とか追跡なんかはこいつらの方が得意だな」
「ちぇっ」
ふいっと不貞腐れてナルトが私の腰に巻きつけていた手を、するりと腰を撫でるように放した。
ぞくっと背筋を震えさせえる決して不快ではない感覚に耐えてナルトの頭を撫でた。
「任務帰りなんだろう? ちゃんと報告書出して来いよ」
「分かってるよ。もう、カカシ先生子供扱いすんなよな!」
するり、と私の手を外して照れ隠しと分かる態度でナルトが言う。
それが可愛らしくて堪らない。
「ナルトが幾つになたって私は先生なの」
「へぇ、へぇ。そうですかー。じゃあ俺はおとなしく報告書出して一楽行くってばよ」
「昼にならないと開かないけどな」
「なんかやけに絡むよな? カカシ先生」
「絡んでないよ。お前が可愛いだけ」
「だああああっ! もういい! 俺ばあちゃんとこ行ってくる!」
「ん。行っておいで」
ひらひらとずんずん進んでいく背中に手を振って私は子犬たちに向き直った。