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□子犬とワルツ
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 日暮れ時、疲れて眠ってしまった子犬を抱えて里へ戻ると、大門の側にナルトが立っていた。

「先生、お疲れ。半分持つってばよ」

ひょいひょいと子犬を三匹自分の腕に移動させて、ナルトが笑う。

「ありがと。犬塚家に帰したら任務終了だ」

「こいつらキバんとこの犬なの?」

「そう。手が足りないみたいでな。非番だから手伝ってるの。因みにCランク任務」

「Dじゃねえんだな」

「慣れてないと忍犬候補の面倒なんてみれないから」

「ふーん。あのさ、あのさ。俺明日っから暇なんだけど、俺も一緒に行きたい!」

「良いよ。朝早いから遅れるないように」

「先生だけには言われたくねえっての……」

「私は寝汚いわけじゃないの。ほら、まあ……ちょっとしたアクシデントが重なって」

「はい、うそ!」

ひでぇよな、俺らの先生。そう言いながら子犬を撫でた。

「ナルト、お前これから用事無いの?」

「ないけど、何? 一楽奢ってくれんの?」

「昼も食べたんでしょ? 定食屋で良いなら奢ってやる」

「やった! 俺先生が奢ってくれんなら何処でも行くってばよ」

べたっと背中に張り付いて、肩に乗せられたナルトの顎を跳ね上げ、痛いとか酷いとかいう文句を聞きながら私はゆっくり暮れていく里を歩いた。




二杯目の白米と味噌汁をかなりの速さで胃に納めるナルトを見ながら三分の一まで減った自分の食事を進める。

急がなくても誰も取って行きやしないのに、と昔から思うし、若い彼らの時間は私より進みが遅いものだろうに。

安価で美味しくて量があるこの定食屋は、朝早くから夜遅くまで営業しているので忍の客が多かった。

「これあげる」

手を付けていない一鉢をナルトのお盆に乗せると、箸と茶碗を持ったままナルトがこちらを向いた。

「先生、食わねぇの?」

「だからあげるって言ってるの」

「俺に好き嫌いするなって散々言ってた癖によ」

「お前、食べもしないで嫌いって言ってたでしょ? 食べてから嫌いって言いなさいよ」

「じゃ、先生も食ってから言えってば、ほら」

茶碗を置いて小鉢からきんぴらごぼうを箸で摘まんで私の口元まで持って来た。

「きんぴらごぼうは好きだよ、私」

「食べたらいいじゃん?」

事も無げにナルトが言う。

お前の手ずからってところに問題があるって何で分からないのよ。

辺りの気配を探り、見たものを面白おかしく誇張して吹聴しそうなやつがいないか確認し、私は素早くナルトが向けた箸の先に食い付いて離れた。

「先生、うまい?」

「うん。きんぴらごぼう」

「そりゃ、それ以外ないんだけどさぁ」

味を尋ねられたなんて事は分かっている。

「米と味噌汁だけってのもなんでしょ? 手つけてないからあげるよ」

「初めからそう言えってばよ。先生、ありがと」

照れたような恥ずかしいような顔するので私はナルトを可愛く思って笑う。

「どういたしまして」

きんぴらごぼうを口に運ぶナルトの手が箸をくわえたまま、ふと止まる。

「どうした?」

ううん。何でもない。と首を振るナルトから自分の食事に目を落とし、そう。とだけ相槌を打った。

食事を終えると私とナルトはそのまま別れてそれぞれ家路に着いた。

ナルトはべたべたくっついて来る事が嘘のように手を振って背を向け去ってしまった。

寂しいなんて考えたくも無い。

好きだなんて絶対に言えない。

私はナルトの先生で良かったと思う。

この先私たちがどんな道を歩もうと、私がナルトの上忍師だってことだけは変わりなく、苦くも辛くもない思い出になるだろうから。
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