連載『crystal days』全40話(2010/2/9完結)

□第10話 「そないなこと言われたら手ぇ抜かれへんなぁ」
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『crystal days 10』

白石くんのお家にお泊まりしてから、一週間が経った。
その間も一緒に帰ったり、メールをしたり、電話をしたり、
学校の誰にも話してないけど、二人で内緒の時間を過ごしていた。

「本村さん、居る?」

お昼休みに入ってすぐ、森くんと大島くんとさっちゃんと食い倒れビルに行こうとしていたら、
ドアの所で私の名前が呼ばれたのが聞こえた。

「居った居った、本村さん!」

そこに居たのは、白石くん。
あれ。どうしたんだろ…。

「白石くん!」
「本村さん」

カッコ良くて、頭も良くて、スポーツも出来て、優しくて、面白くて、すっごくモテる白石くん。
そんな白石くんと、転校生で接点があるはずが無い私が話していたら、否が応にも視線が集まる。

「どうしたの?」
「何て言う訳なないねんけど。飯、一緒に食わへん?」
「うん!良いよー」

森くんと大島くんとさっちゃんは傍できょとんとしている。

「白石くんも一緒で良いよね?」
「お、おん」
「ええけど…」
「あきら、白石くんと知り合いやったん?」

3人とも、私と白石くんの関係が気になって仕方がないって感じ。
それはそうだよね、でも、会ってその日に付き合いだしたなんて言ったら、ビックリするよね…?

「うん。仲良しなんだよ。ねー」
「ねー」

白石くんがにっこり笑ってくれる。

「″ねー″て。白石くんて意外とお茶目なんやなぁ。私もっとクールなんかと思とったわ」
「はは。クールちゃうよ」

ふぅ。
白石くんが空気読める人で良かった、って思う。
でもそんな白石くんがどうして急に一緒にご飯食べようなんて私のクラスに来たのかな。
付き合いだしてからも別々にご飯食べてたし、廊下ですれ違っても一瞬目を合わせるくらいしかしなかったのに。
あれ?そもそも、付き合うって、何するんだろ…。

「本村さん、何にするん?」
「んとねー、今日はC定食の日なの」
「C定?ふーん、じゃ俺もC定にするわ」

ピ、って白石くんはC定食の食券を2枚買って、私に1枚渡してくれた。

「あっありがとう。はい」
「ええよ。俺の奢り」
「えええ、良いよ」
「せやかて俺から一緒に食おうて誘ったんやし」
「でも…」
「ええから。これでデートの時可愛え格好してな」

そう言って白石くんがぎゅっと、私が出しかけた小銭を手に握らせる。

「?」
「姉貴に言われててん。″女はデートのためにメイクしたりオシャレしたりようけ金かけてんねんから
 男はデートの時くらいケチらんと全部金出したらなアカンで″って」
「あはは、お姉さん」
「せやけど、まぁ確かにせやなぁて思うねんな。女の子って可愛え格好してくれんねんやんか」
「デートの時に?」
「そ。デートの時に」
「…なるほど…」

そっか。デートの時には可愛い格好しなきゃいけないんだ。
そうだよね。白石くんと並んで歩くんだったら余計そう!
今まで制服でしか会ったことなかったけど、いつかは私服でデート、とかするんだよね。

「ね、白石くん」
「ん?」
「白石くんは女の子のどんな格好が好き?」
「服?」
「うん。服」
「せやなぁ…」

カウンターでC定食が乗ったトレイを受け取りながら白石くんは私の頭のてっぺんからつま先までを一瞥した。

「本村さんやったら何でもええ」
「えっ、何それ」

それじゃ参考にならないよ…!

「せやかて、ホンマやねんか。本村さんやったらどないな格好しとっても可愛えやろ」
「も、もぅ、そんなお世辞は良いから…!」
「お世辞ちゃうよ。ホンマにそう思てんねん。あー早よ私服の本村さんとデートしたいわぁ」
「…」
「本村さんはしたないん?…″初めての私服デート″やで」
「!!そうだね!初めての私服デート…したいね」

初めての私服デート。うんうん。
東京でも友達となら私服で遊んだことあるけど、付き合ってる人と、ってのはないんだもんね。
デートかぁ。良いなぁ。手を繋いで、映画観たりするのかな?それともお買い物?
あっでも、白石くんとだったら何処に行っても楽しそう。
そうかぁ、デートかぁ。

「はは、目がとろんとしてんで」
「え?本当?…いけない、妄想しすぎてたかも…」
「妄想て!どないな妄想しとったん?まさか、やらしーこと考えとったんちゃうやろな?」

そう言って白石くんは胸の前を両腕で隠して見せる。
本村さんのエッチー、とか言いながら。

「ちちち、違うよっ!もぅ!」
「はは、本村さん顔真っ赤。せやったら、どないな妄想しとったん?」
「…ただ、白石くんと一緒だったら何処に行っても楽しいだろうなぁって」
「は、」
「だって、デートってしたことないからどんななのか良く分からなくて。
 で、映画とかお買い物とかかなって考えてたんだけど、きっと何処でもすっごく楽しいんだろうなぁって思って」
「…」
「あれ?…私、また非常識なこと言った…?」
「や、ちゃうねんけど…」
「?」
「その、…嬉しなぁ思て」
「?な、何が?」
「俺とやったら何処でも楽しいて、それすごい口説き文句やないの」
「え、えええええ」

どうしよう。
すっごく恥ずかしいかも!

「はは、そない動揺せんでも。自分で言うてんで?」
「う…うん…」
「そないなこと言われたら手ぇ抜けへんなぁ」

そう言って笑ってる白石くんはすごく嬉しそうで、
私をからかってるだけじゃなくて、本当に喜んでくれてるんだなって思ったら私も嬉しくなった。

白石くん、付き合うって楽しいね。

「ちょお、何でそない仲ええの自分ら」
「あ、さっちゃん!」
「ホンマ、あきらと白石が知り合いやとは思わへんかったわ」

私と白石くんで取っておいた席に、さっちゃん、森くん、大島くんが座る。

「まぁ白石もあきらも有名人やからな」
「え?私?」

白石くんが有名なのは転校してきたばかりの私でも重々承知してるけど。
でも…私も?

「え、て。自分めっちゃ有名人やないか」
「え、そうなの?」
「ほらこんな可愛え子転校して来たら噂にならへんはずないやろ。
 私もよお聞かれんで。″自分のクラスにあきらって子って居るやろ″て」
「可愛いなんて。さっちゃんったら…」
「いや、ホンマやで。あきらホンマ…その…可愛え、やんか」
「森くんまで!もぅ、からかうのやめてよ」
「あきら顔真っ赤やで」
「だって…!」

白石くんの方を見やると、楽しそうににこにこしてる。
からかわれちゃったけど、白石くんが笑ってくれてるならまぁ良っか。

*

「ほな、邪魔してごめんな」

教室の前で、白石くんがさっちゃんたちにそう言った。

「ええよええよ、白石くんとご飯食べれるなんて寧ろラッキーやったわ!」
「おま、何言うとんねん彼氏の前やぞ、はばかれや」
「だってしゃーないやん♪」
「ほな、またな」

白石くんがにっこり笑って片手をあげる。
私も小さく手を振って、一瞬だけ見つめ合った。
別にみんなに隠さなきゃいけないなんて思ってないけど、
こういうのって二人だけの秘密って感じがしてちょっとドキドキする。

教室に入ってすぐ、携帯が着信を告げた。

…白石くんからだ。

そっとみんなから離れて、窓際へ行く。

「白石くん?どうしたの?」
『本村さんの声聞きたなってもうて』
「さっき別れたばっかりじゃん」
『せやけど。いつでも聞いてたいねん』
「ふふ。変なの」
『変ちゃうやろ。好きな子の声はいつでも聞いてたいやん。…本村さんも聞きたいやろ?俺の声』
「えーどうかなぁ」
『えええ!』
「あはは。好きだよ、白石くんの声」
『ん。』
「好き」
『…声だけ?』
「んー…。良く分かんない」
『せやったら早よ分かり。″私白石くんのこと好き!″って』
「あはは。うん、頑張る」

こうやって冗談みたいにしてくれるけど、でもそれは白石くんの優しさで、
きっとどっちつかずな私の気持ちのせいで、白石くんを不安にさせてたりするんだろうな。

『な、今日もうちに泊りに来おへん?』
「えっ、良いの?」
『ええに決まってるやないの』
「でも、先週もお邪魔しちゃったし…」
『うちのことは気にせんでええねんて。それより本村さんと一緒に居たい』
「う…うん…」
『本村さんは?一緒に居りたないん?』
「…一緒に居たいよ。でも…」
『せやったらええやん。おいで』
「うん…」

迷惑、じゃないかなぁ。
白石くんのご家族はみんな本当に優しくて、すごく楽しかったけど。
でも甘えてばかりじゃダメだよ。

「あっそうだ!」
『ん?どないしたん?』
「白石くんが泊りにおいでよ。私ね、キッチンがある部屋に移ったの。だからご飯作ってあげる」
『え、ホンマ!?』
「うん。私こう見えて、お料理結構得意なんだよ」
『へー。…お手並み拝見やな』
「ふふ。じゃぁ帰りまでに食べたい物考えといてね」
『ん。アカン、めちゃめちゃ楽しみや』

白石くんは本当に嬉しそうにそう言ってくれて、
私は午後の授業の間中ずっと、白石くんは何が好きかなぁとかデザートは何にしようかなぁとか考えていた。

 up 2009/11/26
 
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