短編2

□白石先輩の彼女、10日目
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『白石先輩の彼女、10日目』


「何でやねん…何で蔵があきらとチューしてんねん!」

ハッとして瞼を上げたのと、お兄ちゃんが白石先輩をグーで殴りつけたのはほぼ同時だった。
白石先輩は避けなかった。
白石先輩が避ければ、お兄ちゃんのグーパンチが私に当たっていたかも知れないからだ。

「……ッ」
「ごめんなさい!白石先輩…痛かったですか?」
「や、大丈夫やけど…口ん中血の味しかせえへん」

そう言って白石先輩がちらりと出した舌を鮮やかな赤が覆っている。
色っぽくて見とれそうになるけど、ぶんぶんと頭を振って私はお兄ちゃんを睨み付けた。

「お兄ちゃんヒドいよ!どうしてこんなことするのっ!」

お兄ちゃん、と言ってもお兄ちゃんは私の本当のお兄ちゃんというわけではない。
お兄ちゃんの名前は一氏ユウジ。
兄弟みたいに育った、私のおさななじみ。

「あきら、ヒドいちゃうやん!俺はあきらのために親友を殴ってんで!?心が凍りそうや!」

そう言ってお兄ちゃんが手を繋いで向かい合ったままの私と白石先輩の身体とを引き剥がす。

「ええか、あきら。蔵はホンマにええ奴や。性格もええし頭もええしテニスも上手い」
「うんうん」
「それに加えてこの顔や。女子にようけモテる」
「うんうん」
「せやからな、付き合ったりしたら絶対に傷付けられる。悪いことは言わんから蔵はやめとき」
「やだっ」
「あきら!何でやねん。俺はあきらのためを想ってやなぁ…」
「やだよお兄ちゃん、だって私、ずっと白石先輩のこと好きだったんだよ」
「あきら…」
「まあユウジ、自分があきらのこと心配なんは分かるけどや、あきらは俺が大切にするしや」
「白石先輩…!」
「アカン!とにかく、蔵だけはアカン!蔵やなかったらもう誰でも…せや、忍足にしとき!」
「忍足先輩のこと別に好きじゃないもん。白石先輩が良いの!」
「せやかて…」
「ユウジ、」

私を白石先輩から守る(?)ように私の両腕を抱いていたお兄ちゃんの手を白石先輩の手がすっと伸びてきて解く。
白石先輩の手はテニスをしているのに色白で、きれい。

「俺あきらのことホンマに好きやねん。絶対に大切にする。俺のファンの子からも守る。せやから許して。な?」
「ホンマにあきらのこと守りきれるんか。できひんかったらどないするんや」
「大丈夫。絶対に守る。それに、ユウジかてあきらが可愛くて心配しとる訳やろ?
 せやったらあきらがどないしたら一番幸せになれるのか考えたらな」
「どないしたら一番幸せになれるのか…」
「俺と付き合うことや」
「白石先輩…!」

白石先輩に当たって砕けろで告白したら″俺も好きやってん″なんて言って貰えた時にはドッキリかと思ったけど、
こうやってお兄ちゃんを説得してくれるなんて…白石先輩、ますます好きになっちゃいます…!
ただでさえ、一緒に学校から帰る時絶対に車道側を歩いてくれたり、
危ないからって家まで遠回りして送ってくれたり、
玄関の前で″後でメールするな″って言ってちゅってキスしてくれたり、
お休みメールでは″また明日な″って言ってくれたり、
毎日毎日好きなところが増えてドキドキして困っちゃってるのに。

「あきら、ホンマに蔵やないとアカンのか」
「うん。白石先輩じゃなきゃダメなの」
「蔵、お前もあきらやないとアカンのか」
「うん。あきらやないとアカンねん」
「さよか…」

お兄ちゃんは考えるように一呼吸置くと、ううん、と唸った。

「ま、確かに蔵はホンマにええ奴やしな。しゃーない」
「お兄ちゃん…!」
「蔵、いえ、蔵ノ介さん、あきらをよろしく頼みます」
「任せてください、お兄さん」

お兄ちゃんと白石くんは男同士の誓い、とでも言うように熱く手を握り合った。
冗談なのか本気なのか。

「ほな、さっきのお返しな」

白石先輩はそう言ってにっこり笑うと、
お兄ちゃんに構える暇を与えずに拳を握って思いっきりお兄ちゃんのほっぺにグーパンチした。

「お兄ちゃん!」
「イダダ…蔵、不意打ちは卑怯やで…」
「ユウジかて不意打ちやったやん。
 それに、俺にあきらを守る力があるってこと分からはりましたでしょ、お兄さん?」

そう言う白石先輩は笑顔だけど有無を言わせぬものがあって、
白石先輩って結構負けず嫌いなのかな…なんて思った、そんな、白石先輩の彼女、10日目でした。

up 2011/6/19 
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