短編2

□sweet*
1ページ/1ページ



『sweet*』

おやすみ。

そう言い合ってお休みのキスをして、身体をピッタリくっつけたまま私たちは目を閉じた。
とくん、とくん、とくん、規則正しい白石くんの心臓の音に包まれているといつもならすぐに眠りに落ちる。
だけど今日は何故だか、なかなか眠気がやって来てくれない。

うーん。

白石くんを起こさないように、そうっと白石くんの胸にくっつけていた顔を上げると、
白石くんは起きてるみたいに完璧なきれいな顔をたたえていた。

起きてるみたいにきれいだけど、
それでも起きている時よりちょっとだけ無防備なそれに、私は触れてみたくなった。

そうっと手を伸ばして、指先でほっぺに触れてみる。
ピクリと微かにまつげが揺れて、起こしちゃったかなって私は思わず手を引っ込めた。

けど、白石くんのまつげは白くてきめ細かなほっぺに長く影を落としたまま。

私はまた、今度はさっきよりもっとそうっと手を伸ばした。

笑いながら困ったように下げられる眉、
私のことをいつも暖かく見守ってくれる目、
キスの合間に私のそれと触れ合わされる鼻、
私の名前をまるで大切なものみたいに愛を込めて呼んでくれる唇。

どれも毎日、きっと誰よりも近くで見ているのに、触れているのに、
こうやって薄明かりの中でひとつひとつ触れていくと、その度に心臓のドキドキがどんどんと高鳴って、
大好きで、

そうっと、そうっと私を抱きしめる白石くんの腕を解くと、白石くんの顔の横に手を突いた。
見下ろしても白石くんの寝顔は完璧だ。

髪を肩の後ろへ全部流して、ゆっくりと肘を曲げていった。
少しずつ近付いて行く白石くんの寝顔。

私、悪いことしてるみたい。

「ふふ」

思わず笑ってしまって、慌てて口に手を当てた。

あぶないあぶない!

白石くん、起きないね。
私今、キスしようとしてるんだよ。
起きないと、しちゃうよ、しちゃうよ!

また笑いそうになるのを必死にこらえて、私は白石くんに、キスをした。

しちゃった!
そう思って白石くんから離れようとした瞬間だった。

「…っ!?」

後頭部をしっかりと抱え込まれて、角度を変えて何度も何度も口づけられる。

「…っん、」

ゆっくりと時間をかけてやっと唇を開放されて目を開けると、そこにはイタズラっ子のように笑った白石くん。

「起きてたの!?」
「ん。」
「も、もぅ、寝たフリするなんて…ずるいよ…!」
「だってあきらが可愛えことしよるから」
「もぅ、白石くんのイジワル…!」
「イジワルちゃうって」

そう言って笑う白石くんの腕の中に閉じ込められて、私たちはもう一度キスをした。

さっきのキスもドキドキして楽しかったけど、でもやっぱり、二人でするのが良いね。

白石くんにぎゅっと抱き付いて、さっきより少し早い鼓動に耳を澄ます。

「あきらどないしたん。俺にイタズラしよ思て寝るの待ってたん?いやらしいわぁ」
「ち、違うよ…!ただちょっと、眠れなかっただけ」
「何で?どないしたん、何かあったん?」

心配を含んだ白石くんの声に、私は白石くんの胸にくっつけたままの頭を振った。

「ううん、何もないよ」
「せやったらどないしたん。いつものび太くん顔負けですぐ寝るくせに」
「ええ、のび太くんって…ひどいよドラえもん」
「俺がドラえもんなんやったらあきらのび太くんでええやん」
「あはは、そうだね。でも私しずかちゃんと結婚しちゃうけどね」
「あ、アカン!そのしずかちゃん目の下にホクロあるやろ」
「あはは、けーくん!」
「これ、名前出しなや…」
「えぇ?」
「あきらが他の男の名前呼ぶの聞きたないやん」
「そ、そう…か、ごめんね」
「ホンマやで、のび太くん」
「ごめんねドラえもん」
「の〜び〜太〜く〜〜〜ん」
「あはは、貴重!白石くんの似てないモノマネ…!」
「似てないは余計や!」
「あはは」

最近はおやすみのキスをしたらすぐに(だいたい私が)寝ちゃってたけど、そう言えば前はそうじゃなかったよね。
白石くんと一緒の布団に居るとドキドキして眠れなくって、それに眠っちゃうのがもったいなくって、
ずっと他愛もないお喋りをして、空が明るくなって来てからやっと眠ってたんだったね。

「久しぶりやな」
「うん」
「たまにはええな」
「うん」

私たちは前よりずっと一緒に居られるようになったけど、
その中で一緒に居ることやいろんなことが当たり前になってきちゃってたんだね。

白石くんと一緒に居られるのって、すごく幸せなことなのに。

「眠れそ?」
「うーん」

白石くんの腕枕でごろごろと寝がえりを打ってみる。

「したら、おまじない」
「おまじない?」
「ん。」
「?」

白石くんが右手の親指で優しく私のほっぺを撫でて、顔を近付けたからキスをするのかなって思って目を閉じた。

「よぉ眠れますように」

そう言うと白石くんは、私のまぶたの向こうで、そっと、まつげに唇で触れた。

「…?」

唇で右に左に、まつげを撫でられる。
あ、新しい感覚…。

それからちゅっと音を立ててまぶたにキスをしてくれた。

「眠なってきたやろ?」
「う、うーん…」
「はは、アカンか」
「今の、何?」

私が目を開けると、白石くんは楽しそうに笑って子どもをあやすようにおでこを撫でてくれた。

「まつげ触るとな、眠くなるんやって」
「へぇ、そうなの?」
「ん。せやからまつげにキスした」
「あはは。効くのかなぁ。初めて聞いたよ」
「ん。俺も。せやけど、目擦ると眠なるやん?」
「あぁ、そうだね」
「ん。せやから効かんとも限らへんよな」
「そうだね…あ…、」
「ん?」
「眠くなってきたかも…」

白石くんの背中に腕を伸ばして、ぎゅぅっと胸に顔を埋める。
温かい、なぁ…。

白石くんの胸にまぶたを擦り付けると、甘くて深い眠りに落ちていった。


「…効いてるやん」

俺も、抱き締めたあきらの髪にまぶたを擦り付けると、
あきらの最近のお気に入りのさくらのシャンプーの香りに包まれて甘くて深い眠りに落ちていった。

up 2011/5/23 
ぱちぱち戴けると励みになります!


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ