Clap

□ひろいひろい
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いつ見ても、きれいなヒト。

外見だけじゃなくて、中身まで

一点の濁りも、あの人は自分に許しはしないのだろう。


「ビラール!!」


岸から彼を呼ぶと甘い、甘い極上の笑顔を浮かべて彼は水面を音もなく歩いてくる。


「ルル、さぼりか?この時間は授業があるだろう」


「先生が実験室にこもって出てこないから今日はお休みになったの。それで、ちょっと休憩しようと思って」


ぽかぽかとした春の陽気に誘われて、私はきらきらと光る湖に足を向けたのだ。


「ビラール?暖かくなってきたことは来たけど…まだ水は冷たくない?」


「まあそうだな。だが水面の輝きに魅かれていてもたってもいられなかった」


そういうビラールはまだ水面に立ったまま。


「お前も見てみるか?」


「…意地悪ね。私がまだそんな高度な魔法を安定されられないの知ってるのに」


内心とっても見てみたい。

湖だけじゃない、彼と同じものが見たい。

彼と同じ目線にいたい。

彼と対等…になるのは難しいだろうけれど、それでも。

彼のようになりたいと思うから。


「何を言っている。水は冷たいと言っただろう。その上を大切なお前に歩かせられるわけがないだろう」


「えっ?…ビラール?」


ふわっという浮遊感の後、私はビラールの腕の中にいた。


「ちょっと、ビラール!!は…はずかしいってばぁ!!」


一応授業中とはいえ、時刻はまだお昼を過ぎたくらい。

きっと午後のひと時を湖のほとりで過ごす生徒も多いはずだ。


「気にするな。そんなことを気にしていたらもったいないぞ。こんなにきれいなんだからな」


ビラールは私の言葉を全く気にせずになめらかな足取りで、むず海の中心へと進んでいく。


「ほら、下を見てみろ」


近くに感じるビラールの体温と、耳元で囁かれるかすれた声。


「ちょ、ちょっと離れてビラール!!」


ゼッタイわざとだ。私が逃げられないことをいいことに、面白がっている。


「離れなどできるはずないだろう?愛しい女が自分の腕の中にいる。そんな状態で離れるような男はファランバルドにはいない」


そんなわけない。そしたら彼の国の男性はみんなタラシだ。


「ルル、こっちを向け」


「いや!!せっかく湖を見に来ているんだもの。本当にきらきらしていてきれい…」


子供っぽいと自分でも思うけれど、こんな状態でビラールと目を合わせるなんて自殺行為だ。


「そうだな、本当にきれいだ。このにごりのない湖水や真っ青な空よりもお前は清らかだ」


「えぇっ!!ちょ…ビラー…」


彼のあまりに誇大な表現にびっくりして思わず顔を向けると、そこにいたのは戦士を言うより狩人の顔をした王子様デシタ。


「ぅんっ!!んー!!んー!!」


両手がふさがっているのに、彼は器用に身をかがめて私の唇をふさぎ、不意をついてより一層それを深くした。


必死に私はビラールの胸をドンドンと叩いてみるけど、彼は気にする様子もなく舌を絡めてくる。


「…ん、はぁ…ひ…ひどいわビラール!!」


「ダイジョウブ、大丈夫。問題ナイです」


「全然大丈夫じゃないわよ!!前の口調でごまかさないで!!」


「悪かった、だがここは岸から離れているから何しているかなんてわからないさ」


怒る私をあやすようにビラールは私を抱えなおし、また優雅に岸へと歩いていく。


「ルル、お前は本当にきれいだ。お前の瞳には一点のくもりもなく、いつも私を律してくれる。――譲れないものを思い出させてくれる。だから…」














  生涯私だけをうつしてくれ

 

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