Clap

□エイプリルフール
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「ねえ、ルルちゃん。俺、やっとわかったんだ、23歳にもなって君みたいないたいけな女の子をいじめて喜んでちゃだめだって。いくらルルちゃんが可愛くて仕方がなくても、俺は君と一生を共にするわけだから…もっとしっかりしないと、でしょ?」

「ア、アルバロ…?」


 複雑な関係のまま、いつしか周りのみんなには恋人認定をされ、そのままキス以上の事もするようになった私たち。今夜もアルバロに誘われて甘い時間を過ごしたばかり。まだ身体の余韻も引いていない、そんな状態でアルバロは突拍子もなく切り出した。

 一体どうしたんだろう。

 急にそんなことを言い出すなんておかしい。そう思わないわけでもなかったけれど、すぐ隣に横たわって私の髪に触れるアルバロの表情は真剣そのもの。いつもなら軽薄な笑みで言われる「可愛い」って言葉。そしてそうなればいいとは思っていたけどまさかアルバロの口から聞くことができると思ってもいなかった「一生を共にする」という言葉。

 さっきまで肌を合わせていたからだろう。その言葉は素直に私の心に堕ちていく。


「俺はルルが好きだよ、愛してるんだ。こんなこと、今日しか言えないけど、君のために変わろうって思ってる」

「ほんとに……んっ…」

「本当だよ、この言葉は嘘なんかじゃない」


 問い詰める私をアルバロはキスでそれを止める。そして何を思ったのか身体を起こした。すると、真夜中の月の光が無駄なく整ったアルバロの身体を浮かびあがらせる。キレイな男の人の身体にさっきまであの腕が私に触れ、あの胸に頬を寄せていたのが信じられない。


「っきゃ!!ちょ、ちょっとやめて、アルバロ!!」


 そんなふうに気を抜いていた私をアルバロはひょい、と抱き起こす。シーツを掴む暇さえなくて一糸まとわぬ姿でアルバロの前に膝立ちになってしまった。恥ずかしい、恥ずかしすぎるのにアルバロの真剣な瞳に抵抗できなくなってしまう。


「ね、今の俺と君はなにひとつ隠していない」

「んっ…ア、アルバロ…?」


 アルバロの手が私の髪に触れ、頬に触れ、胸に悪戯をしてから二の腕、そして手へと移っていく。そして、そっと私の手に唇を寄せていく。音もなく、柔らかなそれが手の甲に触れるのを私は信じられない気持ちで見つめていた。


「誓うよ。俺はルルを一生愛するって」

「っ…!!」

「だから、ルルも誓って。そうだな、女性からの誓いのキスはココかな?」

 
 ずっと真顔だったアルバロが悪戯にそのマゼンダの瞳を細めて自分の唇に指をあてる。その仕草は子供っぽいのにすごく色っぽい。私は引き寄せられるようにアルバロの肩に手を置いて、そっと彼の唇に自分を重ねようと瞳を閉じた。


「っ、くくっ…」

「…アルバロ?どうかした……んん!!…ぁ…ん…」


 もう数ミリ、というところでアルバロがこらえきれないというように肩を揺らした。不審に思って瞳を開けると、すぐ目の前にあったのは冷たく残忍な瞳だった。

 まずい、と思った瞬間に、ぐっと頭を押さえられて舌をねじ込まれ蹂躙される。予期していなかった深い口付けについていけない。苦しい。飲み込めない唾液があごを伝っていった。


「っぷはっ…な、なに…?」

「本当にルルちゃんって馬鹿。結構ヒントをばらまいてあげたのに気付かないなんて。随分カワイイ顔で俺にキスをしてくれるんだねぇ?」

「っ……きゃぁっ!!な、なに!?」


 抱き起こされた時の優しさが嘘のように、どん、と肩を押されて私はベッドに仰向けに倒れ込んだ。逃げなきゃ、と思うのだがそれより早くアルバロがのしかかって来て動けなくなってしまう。


「さて、ルルちゃん。今日は何月何日でしょうか?」


 その一言で流石の私も理解した。実感はないが既に日付は変わっている。今日は―――


「4月1日、エイプリルフールね……」

「そういうこと。くくっ、それにしてもした後のルルちゃんっていつも以上に無防備で可愛くないね。面白くないよ」


 面白くないといいながら、アルバロは怪しい笑みをしている。その瞳を覗けば不機嫌な顔をした私が映っていた。


「ああでも、男としてはいい思いさせてもらえたな。ルルちゃんの身体をしっかり見せてもらったし、キスする時の顔を見たらもう一回したくなった。いいでしょ?」


 抵抗する術のない私に、アルバロはこれ見よがしに『愛してる』と酷く甘く囁く。

 どこまでが嘘なのか。考えている間にもアルバロの指が、舌が、その瞳が私を高ぶらせていく。

 今回は私の負けだ。諦めてついたため息は自分が思っていた以上に甘く湿り気を帯びていて。

 私はふわふわとした感覚にその身を任せるのだった。
 

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