Clap

□約束を果たしに
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約束を果たしに



「ひさしいな。ずいぶん大きくなって」

「…お久しぶりでございます。殿下が帰国してもう10年ですから、さすがに私も大きくなります」


初めて訪れたファランバルドは話に聞いていた通り、砂漠が広がっていた。

灼熱の太陽に、どこまでも澄み切った空。

しかし、どこか生き物の気配が薄い。


「10年か。臣下を説得するのに随分とかかってしまった」

「ご安心を。すぐにその分は取り戻しましょう。ルルを含め、優秀な人材を連れて参りました」


ビラールの帰国から10年。目の前の彼はますます王族としての威厳を身につけてはいるが、その瞳は相変わらずいたずらっ子のように輝いている。

そして、彼は10年をかけてファランバルドに魔法を用いた研究所及び小規模の魔法学校の設立をもたらしたのだ。


「エストが所長でルルが校長とは頼もしいな。それで、ルルは?美しく成長した姿を楽しみにしているのだが」

「ええ、殿下のおっしゃる通りでございます。少々こちらの服装への着替えに戸惑っているのでしょう。すぐに参りましょう」

「なんだ、表情も変えないとはつまらないな」


僕とルルの関係が続いていることを知っていて、その上で僕をからかうビラール。以前の僕なら無視しただろうが、成長したのは外見だけではない。

うまくあしらいながらも牽制することも覚えた。…そういうことが苦手な僕が覚えるくらいに、彼女を狙う男が多かったせいだ。


「そんなに大切ならば結婚したらどうだ?まだしていないと聞いたが」

「…そうですね。私の覚悟が決まり次第」


そう。僕とルルは未だに恋人関係である。10年もの間、僕は一歩も前に進むことができていないのである。

そのことに対して、ルルは何も言わなかった。僕はそれに甘え続けていた。

でも…


『――――ー』







「…ルルが来るようだな。ああ、そうだ。別に口調を改める必要はない。昔のまま接してくれ」


ざわり、と人が動く気配にビラールは僕にわかるほどに雰囲気を変えた。試すように僕を見ていた視線は聡明で慈悲深いものに。

そして、いまさら態度について言及したのはルルとの距離を空けたくないから、わざとに違いない。全く、ため息が出るほどルルに甘い人だ。

だけど、負けるわけにはいかない。

僕はそっと右手で左手に触れて、やっぱりこの10年で覚えた笑みをちらりとビラールに向けた。


「では、そうさせてもらいます。あなたには負けません」

「…なるほど」


一瞬、合わさった視線。そして…



「遅れてごめんなさいっ!!会いたかったわ、ビラール!!」



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