Clap

□君の面影
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空に手を伸ばした

遠い遠い、手の届かない澄んだ空へ――


「なにしてるの?」


広い庭園の奥。ぼおっと寝ころんで雲ひとつない青の空に手をかざしてにぎにぎとしていると茂みをかき分ける物音と幼い子供の声がした。


「別になにも」


持ち上げていた腕をぱたんと下ろして答える。ついでに瞼も下ろすと広がるのは赤い血の色。


「嘘はいけないんだよ!!」

「そうですね……っう!!」


子供がぱたぱたと駆けよって来たかと思うと、勢いよくお腹の上に座り込んだ。

内臓が出そうな衝撃に、学生時代の何かが思い出される。


「…何でしょう?」

「なぁに?」


目を開けるとまたがっていたのは陽光に輝くくるりとした金の髪に琥珀の瞳。

彼女は自分が何を言われたのかわからないようで、きょとん、と首をかしげると、ぺたぺたとお腹から胸の方へとそのまま登ってきた。

年齢は5歳くらいだろうか。たしか、そうだったと思う。

そうしてじーっとこちらを凝視され、なんだか嫌な予感がしてその瞳から目をそらした。


「おはなしする時はちゃんと目を合わせないとだめなのよ!!」

「はぁ…とりあえず僕の上から降りてくれませんか」


別になんの話もしていないし、できれば彼らに会う前にここから退散したい。

けれど、彼女は僕の言葉を聞いているのかいないのか相変わらずこちらを見たまま動こうとしない。

こうしてみると、当然と言えば当然だが二人によく似ている。どちらかと言えば彼に似た繊細な顔立ちな気がする。


「お兄ちゃん、おなまえは?」

「…どうして、そんなことを聞くんですか?」

「わたし、お兄ちゃんとおともだちになりたいの!!」


しばしの沈黙の後、初めて会話らしい会話が成立したが、その内容はとてもとても懐かしいものだった。

なるほど、中身は彼女に似てしまったらしい。…どちらに似たとしてもなんだか不安だが。


「わかりました。では、まず僕の上から降りてください」

「うん。あっ!!ママとパパの声だ!!わたし、行かなきゃ。バイバイ、えっとぉ…」


やっと自由になった上体を起こすと、かすかな声が聞こえてきた。呼ばれているのが、彼女の名前なのだろう。

急いで現れた時と同じ茂みに走っていく彼女は、その前でこちらを振り向くと困った顔をして見せた。


「…エストです。あなたを探していますよ、早く言ったらどうですか」

「バイバイ、エストお兄ちゃん!!わたしたち、もうおともだちだからね!!」


そう、まるで花が咲くように笑って彼女はもうに振りかえらず茂みの中へと戻って行った。

まさに台風一過だ。

再び身体を倒して、また空に手を伸ばした。

そして、目を閉じる。


――そこに見えたのは金色の光だった。


僕の名前を、彼女はいつまで覚えているだろうか


 
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