Long
□闇に沈んで
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どこか遠くで彼女の声が聞こえた気がした。
そんなことがあるはずがないのに。
ミルス・クレアで過ごした日々はもう、僕にとっては思い出でしかない。最初は全ての事を諦めて過ごしていた。どうやったって、僕の未来は変えられないと思っていたから。
でも、それは間違いだと僕に教えてくれた人がいた。自ら危険な目にあってまで、僕を迎えに来てくれた人。
彼女と出会ってからは、毎日があざやかで、驚きの連続だった。彼女に会ってからが、今の僕の全てになった。
…だから、僕はあの人の手を放した。
「…せめて、最後くらい貴方達の息子である『エスト』として見て欲しかったですね…」
すでに二度と動かなくなった自分を生み出した2つの肉体を前に無意識にそっと呟いた。その声は、わずかに震えていて、自分が泣いているのだと気付かせる。
「…やっと、これで終わりにできる。僕という存在を」
そう彼らに言い残して僕は外に出る。久しぶりに訪れたラティウム、さまざまな記憶が思い出される。頬を伝う涙を乱暴にぬぐう。…この涙はきっと、戻れないことへのもの。今更だと思う。
「こうして、全てから逃げだすのも3回目か…いつもあなたを馬鹿にしていたけれど、本当に馬鹿なのは僕のほうですね…あなたを突き放して、傷つけて、闇の世界に身を置いて、最後には全てを壊してしまった…」
でも…これでよかったんだ。
風の噂で彼女はミルス・クレアを卒業し、ビラールと共にファランバルドへ渡り、彼の傍で支えになっていると聞いた。きっと、幸せに、穏やかに、彼女らしい道を歩んでいるんだろう。
――この空を眺めるのも、最後か…
僕はミルス・クレアへと歩きだした。
この魔力に侵された身体でも、彼らなら跡形もなく消してくれるだろうから。
通いなれた道を、一歩一歩進む。
足音を消すことに慣れた足で。
ただ、ひとりで…
けれど、僕は途中で足を止めた。
――どうして神様はこんなに非情なのだろう
両親を殺したその日に
――目の前に立ちふさがったのは、『彼女』