Clap

□FD side story
6ページ/6ページ


case.6 Julius By Est



…邪魔をして申し訳ない。


そんなことを思ったのは人生で初めてだった。





――――
――





いくらラティウムとはいえ冬は寒い。おまけに図書館からでると雪まで降っていた。

初雪に少し歩みを緩めたからか、思ったより身体が冷えてしまった。そう思ってエントランスに入ると鏡の前にユリウスとルルがいた。

どうしてこう、もっと迷惑にならないところでいちゃいちゃしないのか。

そうは思ったが二人の様子があまりにも初々しくて、出ていく勇気が出ない。

仕方ない、二人の会話は聞こえないし少し待とう。

二人はお互いに柔らかく幸せそうな雰囲気で、なんとなく僕まで温かい気持ちになる。もう少し我慢しよう。…けれど、冷え切ってしまった身体がそうはさせてくれなかった。


「…っ、くしゅんっ」


その瞬間、僕が感じた気まずさは言い表せないものだった。


「あ、エスト!!ご…ごめんね、入口を塞いじゃって。じゃあ…また明日ね、ユリウス」


ルルが焦ったようにそう言って鏡をくぐっていったが、その様子は名残惜しそうであった。
 

「…………」


残されたユリウスは、きっとルルを抱きしめようとしていたのだろう。行き場のなくなった自分の腕を見ている。

その姿があまりにもさみしそうで、僕はどうしていいかわからなかった。


「その…すみませんでした」


僕の言葉にユリウスはわけがわからない、というような顔をして僕を見た。


「いや…別にエストは悪くないよただ、こういう気持ちはなんて言うのかな?なんていうか、ルルと別れる時、胸がぎゅーっとなるんだ。どうすればいいんだ?」


その言葉は僕に答えを望んだものではなかったらしく、ユリウスはいつもの様に悩みながら鏡へとはいって行った。


ユリウスが消えたエントランスで僕は大きく息を吐きだした。


  どうしようもないこと

 
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ