連載

□ハート一枚
1ページ/1ページ




「マスター何してるの?あ!」


後ろからエプロンを引っ張ったリンは、私の手元を見て顔を輝かせた。


「チョコレート!」

『そうだよ、チョコレート。』

「いーな、美味しそう。」

『ん、リン、あーん。』

「やった!あーん。」


そう、今日はバレンタインデー。
しかし、毎年のような友チョコという地獄のチョコレート合戦はない。
だって今年は…


『休みだからー!やっふぅ!』

「マスター!?」

『あ、ごめんねリン。(やばいチョコ飛んだ)』


貰ったお返しのための分に夜中まで何十個ものお菓子を作り、
翌朝は屍状態。
でも今年はうちの子たちの分だけでいいから格段に楽である。


『よし、次は…』




─居間─


「あれ、甘い匂いしないか?」

「たぶんねぇ、マスターがバレンタインデーのお菓子作ってるんだよ。」

「あ、いいな。なんかチョコ食べたくなってきた。」

「何を作ってるんだろう。アイス…はないか…焼き菓子かな。」

「ま、メッセージカードは""ミクへ"てことは確実だよね。」

「聞き捨てならないなぁ。"カイトへ"の間違いだろ?」

「はあ、また友チョコってやつじゃん?」

「甘いなぁレン。だって今年は祝日だよ?マスターは今日、誰かと会う予定とかないし。」

「必然的に俺になる。」

「はあー?だからそこはー」

「あー…」←めんどくさくなった









どん、


『はい、みんな!』

「えーっと…これは、」

「…(おれはこうだと思った)」

「バレンタインデーの、ですか?」

『そうだよ。』


夕飯の後、私がテーブルにおいたのは小さめのチョコレートケーキ一台。
生クリームまでちゃあんと用意したのに。
三人は、なんだか微妙な顔をしてる。


『もしかして…チョコレートケーキ、嫌?』

「そそんなことないですっ!」

「嫌じゃないよ!…ただ、」

『ただ?』


ごすっ


「ぃ…ったー、なにさカイ兄?」
「いいから黙って食べろっ」

『どーしたの?(なんかこそこそしてる)』

「放っとこうよマスター。ありがたく頂くね。」

「あー私もー!」

『はいはーい、じゃ切るね。』










皆が寝静まった頃。
私は明かりのついた居間に向かう。

手には二つに折ったトレッシングペーパー。
はさんであるのは、こっそり作ったハート型のクッキー一枚。



『まだ起きてたんだね。』

「あ、マスター…え、」



みんなには内緒です。
だって今日はバレンタインデー、でしょ?










───────

私のハート、一枚どうぞ。



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ