Birthday!

□ろうそくの火が消えた
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5月5日は何の日?

普通は“こどもの日”と答えるだろう。

しかし私はこう答える。

“恭弥の誕生日”と。






「……で?」

「だからお祝いに来たんだってば」


恭弥のことだから、祝日でも学校にいるだろうと思って来てみれば見事ビンゴだ。
まあ当たり前といえばそうかもしれない。


「…何の」

「へ、」


おかしな事を言う恭弥に驚いたが、怪訝な顔をする彼を見て本気で言っているのだろうと悟った。


「今日は何月何日?」

「5月5日」


真面目な顔で答える恭弥が可愛くて少し笑えたが、ポーカーフェイスを保った。
彼を驚かせ、そして喜ばせられるように、と


「じゃあ5月5日は何の日?」

「こどもの日」


この人は普通の答えを言うのか。
そりゃそうか、自分の誕生日なんて事自体を忘れているんだし。
ていうか、こどもの日を覚えてるなんて。
やっぱり学校の祝日だから?
じゃあ祝日じゃなかったら恭弥はこどもの日を覚えていなかったのかな?
そうだったら笑える。


「こどもの日といえば?」

「さっきから何が言いたいの」

「良いから」

「……柏餅?」


意味が分からないといった顔をする恭弥を無理矢理押し込める。
柏餅かぁ、まあ確かにそうなんだけど。
恭弥、チョイスが可愛いな。


「…違うの」


黙り込む私を見て不機嫌そうに恭弥は口を開いた。
しつこかったかな、やっぱり。

うん、じゃあそろそろ本題に入りますか。


「残念。違うよ」


私の言葉でさらに不機嫌な顔になる恭弥。
まあ良いや、機嫌なんてすぐに変わる。


「お誕生日おめでとう、恭弥」


取りあえず、だけど祝福の言葉を口にした。
これは絶対に伝えなきゃいけない言葉だと思う。

恭弥の顔色をうかがえば、きょとんとしていた。
けれどすぐにふ、と笑ったのだった。


「そういう事ね」


恭弥の笑顔は安くない。
案外こんな簡単に見れるなんて思っていなかった。
ついてるな、私。


「で、何かくれるわけ?」


今度は打って変わってにやり、と妖しく笑う恭弥。
こっちの方が彼らしい。


「ないよって言う訳あると思う?」

「…ありえないね」


君とは長い付き合いだからね、と呟く恭弥の目の前にホールケーキを差し出した。

長い付き合いでも流石にホールケーキは予想していなかったようだ。
当然だ、今までにホールケーキを作ってあげた事なんてなかったもの。


「…食べてくれるよね」

「…君は僕を殺す気かい?」

「少しなら食べるけど、あとは全部恭弥のだから」


ホールケーキは糖分の塊のようなものだ。
甘いしくどいし、最終的には吐き気がするだろう。

しかしこれは私の愛情すべて。
なんていえば許してくれますか?
だって彼氏の誕生日=手作りケーキ、ってイメージがあるんだもん。


「…わかった」


ため息をついた恭弥が折れた。
本当に食べるんだ、この人は。


「…何にやけてるの、気持ち悪い」


自然ににやけてたらしく、頭を叩かれた。
普通の彼氏ならば小突くように叩くのだろうけど、あいにくうちの彼はそんなに優しくありません。
かなり痛いです。


「いただきます」

「ちょっと待った!」

「…なに」


ケーキにナイフを入れようとした恭弥を止めると、かなり不機嫌そうな顔の彼が振り向いた。

なにか忘れてません?
ケーキに付き物の。


「蝋燭立てなきゃ」


そう、ろうそく。
誕生日ケーキを買うと、ろうそくが付いてくるでしょう?

…そもそも恭弥はいくつなんだっけ。


「何本立てる?」

「…僕の歳覚えてないの」

「ごめんなさい恭弥様、そんなに睨まないで下さい」


不機嫌オーラハンパない。
怖い怖い。


「まあ良いや、とりあえず30本くらい立てといて」

「30本て恭弥さん」

「じゃあ君の勘で良いよ」


恭弥に言われた通り、自分の勘でろうそくを立てていく。
立ててから、これで良いのかとか迷ったりしたけど、まあいっか、てな感じでケーキを再び恭弥の前に持っていった。

どこから出てきたのか分からないライターを取り出し、恭弥は丁寧にろうそくに火を点けていく。

そして応接室の電気を全て消し、誕生日パーティーっぽい雰囲気が漂った。


「火消して、恭弥」


ふぅっ。
私の愛しい彼はろうそくに息を吹き掛けた。
その息遣いはいつものように荒々しいものでなく、気遣うように優しいものに見えた。



ろうそくの
火が
消えた




「…結局15本じゃないか」

「それなら私と同い年でしょ?さ、ケーキ食べよ」





◆素敵企画『甘いミルクに映るまぼろし』様に提出!

雲雀Happy Birthday!


H22.5.4 葉月





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