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□空が奏でたラブソング
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「おい」
それは突然だった。
特別仲が良いわけでもない、むしろほとんど話したことのない獄寺くんが私に話しかけてきた。
「…え、わたし?」
「お前」
間違えではないかと周りをきょろきょろと見渡していると、獄寺くんはわたしの腕をぐいっと引っ張り、ずんずんと歩いていったのだ。
わたし、なにか悪いことでもしたかなぁ。
「ねえ」
「………」
「ねえ!」
「…あ?」
何も身に覚えがないので、一つ問いかけてみようと前を歩く獄寺くんの背中に声をかけると、ぎろり、と睨まれた。
獄寺くんはかっこいいけど恐いのだ。
「わたしに、なにか用なの?」
「用っつーか」
「なにそれ。ていうか手、痛い」
「あ、わりー」
掴まれた手の痛みを訴えると、獄寺くんはぱっと手を離した。
本当は優しい人なんだよね、獄寺くんは。
「どこ行くの?」
「屋上」
「屋上?」
「おう」
よくわからなかったけど黙ってついていくのが良いと考えて、わたしは獄寺くんの後ろについていった。
「そこ」
「え?」
「階段。お前危なっかしいから躓くなよ」
屋上への階段を上るとき、獄寺くんはドジなわたしを転ばないように気遣ってくれた。
…ていうか、そんなところ獄寺くんに見せた覚えないけどなぁ。
「上見てみろよ」
獄寺くんの言う通りに上を見上げてみれば、空に綺麗な虹が浮かんでいた。
「きれい」
「言うと思った」
「獄寺くん、これを見せるために?」
わたしは虹が好きだし、空を見るのも好き。
ちょくちょく屋上に来て見にくるくらい。
でも獄寺くんがそんなことを知ってるはずはない。
「…獄寺くん?」
「お前、よくここで空見てるだろ」
「うん」
「オレ、よくここでサボるんだよな」
「へえ」
「この前昼休みまで寝過ごした時にさ、お前が空を見に来てるのを見て。よく来てることも知ったからよ」
あれ獄寺くん、顔ちょっと赤い。
「別に、お前のためじゃねー」
ぷいっ、とそっぽを向く獄寺くん。
でもわたしにはわかる、だって今の獄寺くんの耳、真っ赤だから。
「…けどよ」
「けど…?」
「お前の空見てるときの表情が、なんかすげー好きだから」
「え?」
「要するに、オレのためだ」
「なにそれ」
ぷっ、とわたしが吹き出せば、獄寺くんはこっちを向いて笑うんじゃねー!と怒る。
それがまたおもしろくて、笑わずにはいられなかった。
「ねえ獄寺くん」
「…なんだよ」
「また一緒に屋上に来ようよ」
わたしが虹を見ながらそう言うと、獄寺くんは一瞬驚いたような顔をした。
そしてはぁ、とため息をついた。
「しょうがねぇ奴」
その言葉のわりには、顔が緩んでるよ、獄寺くん。
さあ、ゆっくり2人の時間を育てていこうか。
空が奏でた
ラブソング
◆ヒロインに一目惚れした獄寺くんと恋に芽生えるヒロイン
title:レイラの初恋