*日常シリーズ*
□ある夜の風景。
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◆ ◆ ◆
「―――‥‥たら、すぐ‥‥」
「わた‥‥うよっ」
「私た…宿‥‥」
「‥‥‥‥じょうぶ、…ね?」
随分とブツブツと途切れた、様々な声の様々な言葉が耳に入ってきました。
ジュード君は、薄っすらと目を開けます。
「‥‥。」
霞んだ視界と霞んだ頭では、すぐには今の状況が判断できません。
瞼から上が妙に重くジワジワと締め付けられるようで、顔全体が逆上せたように熱くは感じていました。
ただ、緩やかな振動があって、とても広くて温かな場所にいるのだけはわかりました。
(あったかい…)
不思議な安心感から、小さく息を吐き出します。
「気が付いたか?」
その声はとても近くから聞こえました。アルヴィンさんの声でした。
少しだけ目線を上げて焦点を合わせようと努力すると、何故か、アルヴィンさんの耳の後ろから顎のラインがよく見えました。
普段なら到底見られない角度を数秒間眺め、それからようやくジュード君は、自分がアルヴィンさんにおんぶされていると気付きました。
「アル…」
「そのままでいろ。寝たフリしとけ。起きたってわかったらエリーゼとレイアがうるさいぞ」
ジュード君のほうは見ずに言葉を遮り、ジュード君にだけ聞こえる極々小さな声でそう言いました。
ジュード君は大人しく「ん…」と頷きました。
それからアルヴィンさんがポツリと零します。
「…無理するな、馬鹿」
「‥‥ごめん」
ただただ申し訳なくて小さな小さな声で謝ると、アルヴィンさんの肩におでこを押し当てました。
そのまま目を瞑ればすぐに眠気が襲ってきます。
それを察してなのか
「眠かったら寝てていいからな」
アルヴィンさんが優しく言いました。
広くて温かなアルヴィンさんの背中は、今のジュード君にはとても心地良いのでしょう。また「ん…」と短く頷くと、ピタリとくっつく背中に擦り寄ります。
赤らんだ顔のままでしたが穏やかに微笑んだジュード君は、そのまま眠ってしまいました…。