*日常シリーズ*

□ある夜の風景。
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そう言いながらジュード君の顔をチラリと横目で見下ろします。が、何故か急にその顔を曇らせながら、アルヴィンさんはジュード君の顔をマジマジと見ました。
 
「お前…」
「…!ご、ごめんっ。なに?」
 
まるで今までの話が全く耳に入っていなかったようです。
慌ててアルヴィンさんを見上げて聞き返したジュード君ですが、その頬は赤く上気し、琥珀の瞳は潤んで煌めいていました。
突然肩を組んできたアルヴィンさんに恥ずかしがって、というわけではなさそうです。
重たそうに腫れた瞼や、少々虚ろな目は、あまり色っぽい雰囲気ではありませんでした。
 
「‥‥」
 
アルヴィンさんが足を止めます。
ジュード君は先に進もうとしましたが、アルヴィンさんに組まれた肩が彼の手で押し止められ、結局足を止めることになりました。
 
(今止まったら…)
 
そう思うのに、ジュード君の足はもう動きそうにありませんでした。
ジュード君はアルヴィンさんに両方の肩を掴まれ、彼と向き合わされます。
腰を折ったアルヴィンさんに顔を覗き込まれます。
 
「いつからだ?」
 
そう尋ねたアルヴィンさんの声は、いつもの軽さは何処へ行ってしまったのか、とても静かでした。
けれど、ジュード君の顔を覗きこむライトブラウンの瞳は射るように強く、ジュード君は思わず目を逸らしてしまいました。
異変に気付いて、先を歩いていた女性陣は歩みを止めて2人の様子を窺っています。2人の少し後ろに居たローエンおじいちゃんは、2人のすぐ傍まで来て立ち止まりました。
 
「どうされました?」
「ジュードの様子がおかしい」
「な、何でもないよ…っ」
 
そうして肩を掴んでいるアルヴィンさんの手から逃れようと、少しだけ体を捻りました。
グラリ、と。
 
(…あ、れ…?)
 
ジュード君の視界が急に斜めになりました。
それは、とてもとても、ゆっくりと感じられました。
驚くアルヴィンさんとローエンおじいちゃんの姿も斜めになりながら、ぼやけて遠退いていきます。
世界と頭の中がぐらんぐらんと揺れます。
 
「ジュード!」
 
すぐ近くにいるはずのアルヴィンさんの声が、ジュード君にはやけに遠くに聞こえました。
細くなった視界の中が、いつの間にか薄いオレンジ色一色です。
 
(‥‥倒れる…)
 
そう思ったのと、世界が真っ暗になったのと、ジュード君が誰かの腕に支えられたのはほぼ同時でした。
逞しい腕の感触をアルヴィンさんだと感じながら、ジュード君は意識を失いました…。
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