with love
□マイハート・ハードピンチ
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プロポーズをされたときは、とっても驚きました。
私が中馬先生に抱く気持ちと同じものを中馬先生が私に抱いてくださっているなんて、まるで気がついていなかったのです。
…先生が気にかけてくださるのは感じていましたが、それは副担任だからで、スズちゃんが好きなうたのおねえさんだからで、そして、中馬先生が優しいからだと思っていました。
でも、それだけじゃなかったんだなって。
プロポーズはお断りしましたが…思い返すたび、嬉しい気持ちがじんわり心を満たします。
そして、この突然のプロポーズの翌日。
お昼休みに化学準備室で中馬先生のお手伝いをしていたときのことです。
「よぉ…今週の土曜、時間あるか?」
「はい、大丈夫です!」
気怠げにおっしゃるので、たまにお誘いいただいている配布物作成のお手伝いかしらと頭の片隅で考えながら、先生の助けになれることと…休日にお会いできる嬉しさから、勢いよく返事をしました。
そんな私に、中馬先生は安心したように目尻を少しだけ下げて、
(ぁ…この顔すごく好きだな…)
「そぅかい。なら、どっか行こうか。」
惚けていた私に、はっきりおっしゃいました。
…こ!こここここれはデートに誘っていただいているのでしょうか!?
今まで先生からこんな風に誘っていただいたことが一度もなかった私は、情けないことになんとお答えすればよいのかもわからず、ただただ顔を真っ赤にするだけでした。
「……どした?」
けれど、そう言って心配そうに覗き込む中馬先生に、私の心臓はドキドキの容量を超えて破裂してしまいそうでした。
「それはっ!それは、もしかしてデッドですか!?」
だから、これ以上見つめられては死んでしまう!!と、咄嗟に顔を背けて叫ぶように訊ねました。
「ん、行きたいとこある?」
「!」
私の心臓は、本当にピンチです。
中馬先生は、なぜかとても楽しそうで、ククッと喉の奥で笑うような音が聞こえました。
そのときも私は火照った頬を手で隠しながら、行きたいところを必死に思い出そうとしました。
…行きたいところ…行きたいところ…
「わ、私は中馬先生と一緒ならどこだって嬉し…あっ!」
けれど、口から飛び出したのは…場所というよりは願望で。
そのことに途中で気づいたものの、先生にはしっかり聞かれてしまったようです。
「ははっありがとな。なら、今回は俺の行きたいとこに付き合ってもらうかな。」
でも、先生の笑顔が見れたので、よかったです。
恥ずかしさよりも、その気持ちの方が大きいみたいでした。
「よく転んで!(喜んで!)」
中馬先生から初めて誘っていただいたデートは、中馬先生の行きたいところ、か。
(嬉しいな…ふふっ)
「ありがとさん。じゃ、時間とかはまた後でな。そろそろ授業いってくるわ。」
「はい、いってらっしゃい!」
言ってから、結婚したらこんな感じなのかなとか、つい妄想して笑ってしまいました。
「…あーあと、」
「?」
「ここ出るときは鍵かけといてくれな、レミさん?」
そう言ってちらりと肩越しに顔を向けた中馬先生と目があった私は、こくこくと頷くだけで精一杯でした。
そして、静かに閉まった扉を見つめて、ゆるゆると頬を綻ばせました。
(名前、初めて呼んでくれた…)
心の裏側をくすぐられるような、甘くて優しい響きがそこにはありました。
「よーし!私も"鉄治さん"って土曜日までに呼べるように練習しなくちゃ!他にも……」
私も先生をたくさん嬉しい気持ちにさせてみせるわ!
fin.
新しい関係は、今までよりもずっとドキドキ
+あとがき。