with love

□全部俺のもの。
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おいおい…バレーの次は野球、ですか。


他の授業はサボり放題のくせに、どういうわけか体育だけは出席率がけっこーいい。
てゆか、石矢魔クラス全員揃ってんじゃねーかこれ。
そんな異様な出席率と「体操服万歳!!」とガッツポーズを決める異様なテンションの古市(…いや、いつもと変わらんか)に若干圧倒されながら、ふぅ〜と長く息を吐き出す。


まぁ、ぶっちゃけかなりめんどくせーけど…やるからには負けらんねー


頭の上で興味津々といった様子ではしゃぐベル坊に「な?」と振れば、「ダッ!」と元気な同意。
…思えば、こいつは新しいものに出会うたび年相応とゆうべきか、いい顔をするようになった気がする。
出会ったばっかのときは、野球なんてつまんねー対象だったんじゃねぇのかなって思うからかもしれない。
えーと…だからまぁ、何が言いてかっつーと…こうゆう顔に悪魔も人間も関係ねぇんだな、って。
それがなんか、ちょっと嬉しい。

「…っし!やるか、ベル坊!」
「ダッ!」

拳を掲げれば、コツンと小さな拳がぶつかった。



そうこうしてるうちに、気づけば点呼もチーム分けも終わっていて………試合もスタートしてました。

ちなみに俺は今センターを守り中である。
同じチームには、古市(ピッチャー)と夏目(レフト)と…邦枝(サード)がいる。
他の奴らは見覚えあんだが……どうにも名前が思い出せん。でもみんなあんま学校来てないから仕方ないよね。うん、仕方ないさ。

んで、敵方であるバッターボックスには、いろいろ気に食わない東条のヤローだ。
こいつが打った球は絶対取る!どこに飛ぼうが取ってアウトにしてやる!
その一心でグッと睨みつけて、体勢を低くする。
そして古市が投げた球は、東条のフルスイングにより…俺の方にめちゃくちゃ飛んできた。

(よっしゃきたーっ!!!!!)

球場ならばホームランになってそうな球だが生憎ここはグランドで、追いかけているのは俺。
つまり…ホームランになんかさせねぇ!
走る勢いのままに膝のバネを使って跳び、ボールへ手を伸ばす。
…が、それはグローブに収まることはなく、先端を掠め土の上を転がってしまった。

「ちくしょーが!」

転がったボールを今度こそガッチリ掴み、顔を上げると、東条はまだセカンドベースを蹴ったところだった。
周りからは「男鹿く〜んまだ大丈夫だよ」とか「男鹿、早くサード!」とか「姐さんくるよ!」とか、そんな声が聞こえる。

「これでアウトだコラァアア!」

だから、思いっきり東条目掛けて投げた。
けど…





―――…ゴッ


「姐さん!?」
「邦枝先輩!!」

目に飛び込んできたのは、邦枝が頭を押さえて崩れる姿。
鼓膜を揺らしたのは、悲鳴のような怒声のような、余裕のない声。


くに、え…だ?


何が起きているかわかった瞬間にはもう、体が勝手に動いていた。

邦枝、邦枝、邦枝…邦枝!!!!

がむしゃらに走って邦枝の所へ行き、息も切れ切れに声を張り上げる。

「くっ、邦枝…ハァハァッ…大丈夫なのか!?」
「ぁ、男鹿…大丈夫よ、これぐらい。」

駆けつけた俺に邦枝はそう言って笑ったが、この顔は心配させまいとしているだけだと直感が告げた。
現にお前が座り込んだままなのは…立つのもツライってことだろ?

「とにかく保健し「あほか、無理すんな。」
「きゃっ…」

"保健室行くぞ"
そう続けようとした俺を阻んだのは、東条の呆れた声と邦枝の肩や膝裏に回された太い腕。

「こいつ保健室連れてくわ。」
「はぁ!?東条なにゆっ「ちゃんと手当てしねーと大変だろがボケ!」
「なら俺が!!」
「ゆってんじゃねー!お前の前だとこいつ無理すんだろが。」
「!」

何も返せなくなった俺を見るや、東条は背を向けて淡々と校舎へと向かう。
…その腕に、邦枝を抱えて。



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