with love

□恋心。
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私には言えない言葉を、彼女は告げた




午前の授業がすべて終わったという時間。
どういうわけかまた先生から呼び出しを受けた。しかも、"男鹿も一緒に来るように"とのことで…それは、ちょっぴり嬉しい。いや、もちろん呼び出される理由がわからないだけに喜んでばかりはいられないんだけど。

…とにかく、さっきの授業に出席していなかった彼を早く探さなくちゃ。

以前と同じように、男鹿と共に呼び出しを受けたことで、教室内はわかりやすいほど色めきだっていたが、寧々や千秋たちはそれを収めようと奮闘してくれていた。
それに、ありがとうと目でサインを送って私は教室を後にする。
あの子達のためにも早く見つけよう!


この時間…お昼休みだし、購買か自販機のところにいるかなと思って行ってみると、自販機のところで古市くんに出会う。
男鹿は、一緒じゃないのね。

「あれ、邦枝先輩どーしたんすか?」
「ちょっとごめん。男鹿…くん、どこにいるか知らない?」
「あー男鹿の奴は屋上ッス。オレら今からメシなんで…よ、よかったら先輩もごい「ありがとう!」


お礼を言って颯爽と方向転換。
よかった、古市くんのおかげで早く見つかったわ。


タン タン タン

屋上への階段をリズムよく駆け上がる。
そして、あと一歩で扉に手が届くという距離になって、微かに開いた扉の向こうから聞こえる話し声に気がついた。
1人は、間違えようがない…低いけどよく通るテノール…すっかり聞き慣れた、男鹿の声。
もう1人は、小鳥のように可愛らしいソプラノ…女の子の声。聞いたことのない声と話し方から察するに、恐らく聖石矢魔の子なんだろうと思う。

珍しいこともあるもんね

最初はそれぐらいにしか思わなかった。だからこそ、ドアノブに手をかけたぐらいだ。
…でも、開けるためにグッと力を込めようとしたとき。

「好きです!」

切実な響きを伴った…告白、が鼓膜を揺らした。
瞬間、血管という血管を凄まじい勢いで血が巡り、心臓からの循環が途切れてしまいそうだと思った。
それは不意に告白を聞いてしまったからなのか、男鹿へ向けられた好意に動揺したからなのか…はたまた、まっすぐに"好き"と伝えた彼女の勇気にあてられたからなのか。
とにかく、心臓は痛いくらいだし、口の中はカラカラだ。
けれど、悔しいぐらいにそんな状態に陥ってしまっている私にも気がかりなことがある。

男鹿は?男鹿はなんて答えるの?

もし、ここであいつが「俺も好き」だとでも言おうものなら、私は確実に脳天を揺らされる。それどころか、少なくとも…今日はもう男鹿に会うのが辛くなる。
下手をすれば、ずっと、辛くなる。

…勝手だと、エゴだと、わかっている。
告白をした彼女を想えば、うまくいった方がいいに決まっている。
そもそも、告白もできないでいる自分がこんなことを想うのは間違っている。わかってる。
それでも、私は…私の胸の内にあるこの醜い気持ちを捨てることができない。捨てられない。

いつの間にか、そう思うほど…好きになってる


そして、できれば知らないでいたかった感情を認めた私の耳には、再び男鹿の声が戻ってきていた。

「お、おぉ…ありがと、な?」
「なんで疑問系なんですか…ふふっ」

楽しそうな、彼女の声と一緒に。


私はあいつを呼びに来たはずなのに…どうして、一歩も踏み出せないのかな?

ドアノブにかけたままだった手を、ゆっくり離す。
…会っても、きっといつも通りの私でいられない。不審がられるだけだ。そんなのは、ごめんだわ。

バンッ

「お、邦枝?」
「え!?」

ところが、踵を返したところで背後から大きな音…がしたかと思いきや…少し前は最も会いたくて、今は最も会いたくない人物その人が立っていた。



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