文伊祭り
□汀優る
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「俺のことは終わりだよ。お前は腕がいい。いつも的確で迷いがない。お前に処置してもらった傷は治りが早い」
ひとつ息を吐いた文次郎は、じっと伊作から眼をそらさずに、淀むことなく言ってのけた。
驚いたのは伊作だ。
「ええっ。も、文次郎! やっぱり頭も打ったんでしょ! 大丈夫なんて誤魔化そうたって「はいはいはい。たんこぶ一つ無いからねー。確認しましたよねー」
躍りかかるように頭部を診ようとする伊作を、苦無で制し、文次郎は「どうどう」と抑える。
「きみが、手放しで褒めるなんて。三年に一回あるかないかじゃない」
「じゃ、その三年に一回なんだろ」
「うそだ。この前は一年と、二か月九日前だよ」
あと一年九か月と二十一日ある!
「なんで数えてんだよ。気持ち悪い」
「それだけ珍しいってことで」
「ことで、じゃねぇよっ。誰に了解取ってんだ。俺は良しとしねぇからなっ」
「いいじゃない。ちょっと数えてるぐらい。文次郎のケチ。肝小粒」
ぶーと抗議すれば、面白い悪口だなと胸倉を掴まれた。
「あ! 殴るんなら、蹴って」
伊作のとんでも発言に、度肝を抜かれた文次郎は、すわっと色を無くす。
「伊作さんんんんん?」
そんな御趣味が!?
「左腕!」
「あ、おう……」