文伊祭り
□心配かけさせないでよ
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「もんじろう」
振り仰ぐと、目の下に色濃い隈をつくった同窓の顔がある。
鼻のあたまに、すこし脂が浮いている。
唇がしろく乾いていた。
「文次郎。また無茶な徹夜をしたね」
おもわず、礼より先に非難が口をついて出た。
「あ”あ”?」
文次郎の、武骨さにそぐわぬ涼しげな鼻筋に、見事なしわが寄る。
「おめーは、おれを詰る前に、わが身を振り返れ」
ひく、と口端がひきつる文次郎の後ろに、同じく徹夜明けであろう会計委員会の後輩たちが、苦笑しながらたたずんでいる。
「善法寺せんぱい、これ」
「ありがとう。団蔵」
よろけた時に飛び出した薬草を、廊下から拾い上げてくれた一年生に、伊作は笑いかける。
受け取ろうとして手を伸ばすが、どうしてか差し出された薬草に手が届かない。
「?」
伊作がきょとん、とすると、対する団蔵もきょとんとしている。
「あれ?」
ぐっと身を乗り出そうとするが、前に出れない。
「ああ。ありがとな、団蔵」
代りに文次郎が受け取り、伊作の抱える薬草かごに放り入れた。
「ん。なんだ」
団蔵がちょっと困ったような顔で文次郎を見上げている。どうしたと頭を乱暴になぜると「やめてくださいぃぃ」とうろたえるのがおもしろいのか、文次郎はますます強く団蔵の頭をなでまわす。
僕もと、左門が脇の下から頭を突き出してきたので、それをなでてやりながら、文次郎は後ろの三木ヱ門に解散を告げる。
「おまえら、ご苦労だったな。これで今月の帳簿合わせは終了だ。解散」
やったぁと喜び合う後輩らに、明後日からは鍛練と砲弾を投下しておくのも忘れない。
潮江先輩のおにー!と左門と団蔵が叫ぶのを、左吉と三木ヱ門がずるずるひっぱっていった。