山土

□銀食器を磨くのは執事の義務であり特権なんだっつーのよ
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「キモいですぜ、土方さん」
総悟と銀時はドン引いた。
「うるせぇよ!」
土方の目の縁がすこし赤くなる。
「いやいやいや、あの日があんだから」
知ってるのが当然。銀時が頷くと「おチョクってんのか」と煙草をつきつけられる。
「おまわりさーん」
「俺等だ」
「一緒にしないでくだせぇ」
困りますと総悟が手を振る。
「忙しいんだかしらないけどねぇ。市民にアヤつけて歩くのは関心しないなぁ、僕」
煙草を挟んだ土方の拳を、手首を掴むことで阻止しようと銀時は踏ん張る。
「「ぐぬぎぎぎィィぬぐ」」
互角の両者は押すことも、引くこともできない。
「おかげさまで真撰組はヒマですぜィ」
近ごろ浪士どもはなりを潜めてやがる。
だからアホが暇に明かせてちょっかいを出しにかかる。
「ぐぬ。そりゃ、ぎ。誰の、こ、っとだぁ!総悟!」
「あん?ぐっ、そりゃ、またッ。ぐぎっ。床屋に行くヒマもねぇのかとッ」
つかみ合った二人を眺めかながら、総悟はのんびりと缶コーヒーをすする
「なんで床屋で?」
「手ぇが、クッ。荒れてっからよォ」
「「手ぇ!?」」
土方の力が急に消え、「おわわ?」銀時はつんのめった。
「手と床屋になんの関係があんだよ」
見下ろしてくる大小の二人を前に、銀時は体を起こして胡座をかく。
「なんの関係って……。大串くん、高級理髪店に通ってんじゃないの?」
「土方さんはもともと滅多に床屋に行かねぇんですぜ、旦那」
他人に後ろを取られるのが座りが悪く、土方はあまり理容店が好きではない。
「あ、そーなの。意外」
色男なのに。
「そういう流行りもんは近藤さんの方が好きですぜ」
「飼育員さん大変だろ」
「オイ」
ドゴォ
話が脱線してゆくのに痺れを切らした土方が壁を蹴った。
「手と床屋がどうしたって?」
まー乱暴。欲求不満なんでさぁ。
ぶつくさ言うのを蹴ろうとしたが、どちらもかわされて忌々しい。
「いやさ。大串くんさぁ、いつも手入れされてるじゃん」
爪はピカピカで、きれいにヤスリかけられてるし、甘皮も無いし。ささくれなんてみたことないし。ちょっと眉尻も整えられてるよね〜。
そういうサービス受けてる人って、大抵は完全予約制の高級理髪店に行くセレブとかだし?
「さすが万事屋。職種問わずの依頼を受けるだけあってよく見てますね」
「まあな〜。護衛とかあったりするとよ〜」
そうすっと付いてったり、詳しくなるわけ。
銀時はどうでもよさげに小指で耳の穴を掻いている。
「爪欠けてっし、ささくれあるから手入れできねーのかと思ったんだよ」
まさか大串くん、自分で手入れしてんの。
「なっ。ちがっ。勝手に!」
胡乱な目を向けられて、土方がおもしろいほど狼狽える。
「あー、そりゃ違いまさぁ」
「総悟ッ」
「いま山崎が居ないんで」
「オメッ!機密事項なにぺらぺらとッ」
土方の顔が一瞬にして赤く変わる。
「ジミーが居なくて、どうして」
「帰るぞ」
「いや、土方さんは生活のすべ」
「か・え・る・ぞ」
土方が総悟の頭を掴み、ぐぐっと持ち上げる。
「つまんねー事に時間使っちまったぜ」
吐き捨てる土方に、それはいくらなんでも酷くね、と銀時はぼんやり呟く。
「いや。善良な市民がヤクザな警察に絡まれてたんですけど」
慰謝料払ってくださーい。
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