山土

□慕わしさに花を捧げる
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駅は出勤する人でごった返していた。

ご苦労なことだと、黒山を尻目に反対側のホームに立つ。
電光掲示板で確認すると、目的地への快速は中間駅までのしかない。

「まあ、昔よりは便利になったけどな。」
天人様さまだぜ。

半刻まてばちょうどの快速があったが、総悟はホームに待機していた列車に乗り込む。
車内は空いていた。

始めに武州から出てきたときは、野宿しながら二日歩いた。
それがいまや半日もしない。

座席にそっと花束を置いて、移り変わる車窓の景色を眺めていると暫く。
やたらと視線を感じる。
攘夷志士の残党か、犬でもついてきたかと車内に顔を向けると、向かいの座席の女二人と目があった。

女たちはぱっと目をそらす。

何でぇと思っていると、クスクス笑い合う声。
尻の座りが悪い。

中間駅で列車を降りて、つぎの列車を待っているときもチラチラと視線がぶつかってきた。
とくに女たちから向けられる。

わけが分からずイラついていると、隣に立った高齢のふくよかなご婦人に「素敵なお花ね。よくお似合い」と誉めれて合点がいった。

図らずも今日の総悟は、白と青で桔梗の襲色に身をかためている。
花束ももち気合い充分。に見えるこの格好が、世間でどう見えるかなど考えたくもない。

「チクショー、土方コノヤロー」
はめやがったなと呟くが花を指定したのも、この単と袴を選んだのも総悟だ。土方もいい迷惑だろう。
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