文伊祭り

□てのひら
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「文次郎、手ェだして」

んっ、と伊作が両手を付き出すので、いったいどうしたと、その顔と手を交互に見た。

伊作はにこにこと笑む。

「手」

再度ねだるその手のひらに、文次郎は右手をのせてやる。

「むふふ」

文次郎の手を取ると、両手で包みこみ、それから親指でふみふみと、揉んでゆく。

ふみふみ ふみふみ ふみふみ

「伊作さん?」

「え、なに」

ふみふみ ふみふみ ふみふみ

「新しい健康法ですか」

ふみふみ ふみふみ

「違うよ?」

何言ってんの文次郎〜。
あははと笑いながらも、揉む指は止まらない。

同輩らが、またおかしなことをしている、という目で通り過ぎてゆく。

おかしいのは伊作だけであって、俺もでは無い。
文次郎はそう思うが、普段の言動がよりエキセントリックだと思われているのは、実は文次郎のほうだ。
伊作はただの不運、である。

「おい。じゃあなんだよ」

「うん。ぼく、文次郎の親指の付け根のところが好きなんだよね」



「あ、そう」

「ふう〜。楽しかった」

ようやっと気が済んだと、伊作は手を離す。

「ありがとう、文次郎」

伊作の手が離れていくと、急に熱を奪われた感じがして、寒いな。と文次郎は思った。

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