文伊祭り
□心配かけさせないでよ
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「おっと、と」
廊下の板がすこし浮いていた。
気付かずに踏み込んで、伊作は足をとられる。
反対の足をずらして留まろうとしたが、板の段差を踏んでいた方でうまくバランスを取れきれずに、体がかしいだ。
「あー……」
こりゃ転ぶな。
慣れたもので、冷静に視界が斜めになってゆく。
手にしている薬草のかごを手放せば、受け身も取りやすいのだが、その選択は伊作には無い。
むしろ、薬草が飛び散らないように、かごをうまいこと守れないかと、自分の身体のことがおろそかになる。
と、ぐっとわき腹に負荷がかかり、力強く引き上げられた。
「わ」
背中が、堅くも無く柔らかくもない何かにぶつかる。
墨の、甘にがいような匂いがした。
「おめーは、まず身を守れっつってんだろうが」
下に示しがつかねぇ。
耳たぶのすぐ後ろをかすめる湿った呼吸に、伊作はすこしばかり警戒をしていた気を抜いた。
いかな学園内とはいえ、あまり親しくない者と接近するのは緊張をはらむものだ。
特にこういった不意のときは。
だが、いま伊作を抱きとめているのは。