文伊祭り

□休憩
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はっとする。

「あ、うとうとしちゃったのか」

危ない、危ないと明かりを確認する。
芯はまだ長く、それほど時間がたっていない事を示していた。

本日の伊作は、医務室の夜間当番だ。

さっきまでは、薬草標本の整理をしていたのだが、それも終えてしまい、
退屈の虫にやられてしまった。

「あふ……」

ゆらゆらと、壁に、床に、天井に伸びる影を見つめていると、また眠気がやってきた。

「うう……。今夜はまだ誰もこないなぁ」

あんまり鍛練している人が居ないのかな。

学園の、夜間演習日程を思い浮かべてみる。

「えーと、一年生の野営訓練には新野先生がついて行かれたし」

四年い組が、夜間の地形測量の訓練しているぐらいか。

「こりゃ、閑古鳥のオーケストラかな」

医務室の利用など、少ないに越したことはないのだが、あまりにも静かだと人恋しくなる。

そして眠い。

「んー、昼間泳いだせいかな」

いつもなら、こんなに睡魔に襲われることは無い。

水泳は体力つかうからなぁ。
謀らずしも泳ぐことになってしまったのは、いつもの不運だ。

「ちょっと息抜き」

外の空気を吸おうと、しぱしぱする目を擦りながら、戸を開ける。

「うわぁ……」

まぶしい、と伊作は嘆息する。

星の無い、群青の夜。
中天に据えられた円鏡が、内側から皓皓と銀波を発している。

月明かりは広がって、広がって、
地面でさえ白く、明るい。

「今日は満月だった……」

どこまでも、遠く見渡せる。

そんな夜だ。

「これじゃあ、忍べないね」

鍛練を愛する友人も、さすがに休業しているだろうか。

深深とした世界に耳を澄ます。

あまりにも透明なこの世界。

目をつむると、耳の奥で脈打つ、己の鼓動がつよくなる。



ぃたぁーーーーー!
ぃけどんどぉーん!
ぁたれぃぃ!


鼓動の隙間を飛び越えてくる幽かな音。


伊作は微笑む。

「さぁて、休憩は終わりかな」


世界に
ひとりでは無かったので。

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