山土

□慕わしさに花を捧げる
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花を強請(ネダ)ったのは総悟だったが、まさか本当に買ってくるとは思わなかった。

「なんですかィこれ。趣味悪ィ」
渡された花束と、土方を交互に見る。
「てめーがいったんだよなァ?」
「土方さん……まさか。公僕がそんな。みんなー!土方さんが売しゅ……!」
「フツーに花屋で買ったわボケェェェ!」
「チッ」

桔梗のにじむような青と、かわいらしい朱色の実を使ったアレンジメント。

「何でぇ土方。桔梗が良いって言ったのによォ」
「リクエスト通りだろうが」
ウルセェよてめーは。そう言い捨てて、くわえ煙草で出勤してしまった。

「気にくわねぇ」
負け惜しみでその背を見送って、総悟は部屋へ戻る。
出掛ける準備をしなくては。

「……」

水に浸けておかなくてよいものか迷う。
姉がいても、総悟は男子だ。花なんかに興味はなかった。どう取り扱ったらよいのかわからない。
花束を持ったまま廊下で思案していると、
「沖田さん」
山崎に声を掛けられた。

「どうしたんです。花なんか持っちゃって」
デートですかと言う山崎に鼻を鳴らす。

「まあな」
チロリと顔を盗み見るが、この男はいつものタレ目だ。
「差し上げるまで、下向きにしてると良いですよ」

こう、と目の前に拳をつきつけられる。
なんだと思えば、花は頭を下向きにしておけば水が下がってしおれないと言う。

野球のバットのように花束をつかんでいた総悟は、なるほどと逆さに持った。

「じゃあな。今夜はかえらねぇぜ」

ちゃ、と手を上げ支度をするために部屋へ入る。
山崎の「急がないと遅刻ですよ」というのに、どいつもこいつも余計な世話だと鼻を鳴らす。

十分もかからずに支度を終えて、花を携え屯所の門をくぐると門番の隊員に「行ってらっしゃい」と送り出された。
後ろから「今晩はカレーですからね〜」と叫ばれ、閉口する。
「帰らねぇつったろい!」
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