山土

□優しくさせて
1ページ/3ページ

「土方さん……」

山崎は、ゆっくりと、土方にのしかかる。
もちろん意図的にだ。
土方は睨みあげる。
フーと猫のように唸った。

「ね。コレ、外しますけど、暴れたりしないでくださいね」

噛ませておいた猿轡を外してやると、土方は口にふくまされていたてぬぐいを、べっと吐き出した。

唾液が透明な糸をひいて、口端から顎へと伝う。

自由になった口から、いつもの通り

「山崎テメェたたっ斬る」

とのセリフが飛び出すものとばかり思っていたが、土方はぎっと真一文字に結んでいる。
けしてこの口を開くまいとの意思表示に、困ったな、と山崎は肩をすくめる。

「そんな意地を張らないで」

いましめられ不自由な土方の手のかわりに、伝う唾液をぬぐってやる。

「口を開けてください」

土方の顎を支え、山崎は囁く。

口をつぐんだ土方は、射殺さんばかりの目をしている。

負けじと山崎も目に力をこめる。

「土方さんが悪いんですよ」

悲しみと、わずかばかりの苛立ちをこめて、顎にかけた手に力を入れた。

「ッ……」

土方はますます口を引き結ぶが、反するように視線を逃した。

「ねぇ」

土方さん。お願いです。言うことを聞いて。

そっと唇をなぞると、ふるえているようだ。

「こないだみたく痛くしませんから」

優しくするつもりだったのに、あまりにも土方が嫌がったもので、少し手荒にしてしまったのだ。

流れた己の血に、土方は身を固くしていた。

可愛そうだと思ったが、仕方がない。

「土方さんもいけないんですよ。じっとしてって言ったのに」

山崎のたれ気味の目尻が、ますます下がってなさけない顔になる。

本当はいつだって、誠意をもって接したいのだが、伝わらないのが悲しい。
かたくなな土方の態度に、山崎の手から力が抜ける。

「土方さん……。そんなに嫌ですか」

土方は答えない。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ