青の祓魔師2
□雪と涙
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藤本の墓の前に一人の人間がいた。黒い祓魔師のコートを着た小柄な影だ。女性の祓魔師。
藤本の墓にはいまだ耐えることのない供え物がある。彼女はそれを見てふと笑った。なんぞかんぞ言って、彼は人に慕われる人物だった。きっとこの墓の前には、泣いたり怒ったり笑ったりと、多くの人間が彼に語りかけたのだろう。彼女も、例に漏れず藤本に語りかけた。
「獅郎、聞いてる?」
時乃は苦笑しながらそう聞いた。ヴァチカンで藤本の訃報を聞いたのが数ヵ月前。それから大分時間がすぎたが、こうしてやってこれた。
「あの冷徹な聖騎士が、子どもを守って死ぬなんて。大騒動だったのよ」
その時のヴァチカン上層部はまさに蜂の巣をつっついたような騒ぎだった。ただ彼女は、鍵師として招かれたという立場上巻き込まれることはなかったが。それにメフィストの身内である彼女にみすみす弱味になるような醜態をさらすとも思えない。
「まぁ、私は見てただけなんだけど」
時乃が思い出すのは、慌てるお偉方の姿だ。今思い出すても笑えてくる。クスクスという笑い声が冬の夕空に響く。
「楽しかったよ〜残念だったね、見えなくて」
似つかわしくないほど明るい時乃の声が、教会の墓地に響く。それが空元気なのは誰が聞いても気がついただろう。けれどここには誰もいない。
そう、今こうして話しかける藤本もいない。
「ほんと……最高だったよ、あの狂乱は」
木枯らしが吹いた。少し身震いする。祓魔師のコートだけでは少し寒いくらいの気温のだ。
この木枯らしに、木に一枚だけ残っていた枯れ葉が力なく落ちていった。物悲しい景色だ。墓地には似つかわしいが、時乃がしる藤本獅郎という人物にはまったく似合わなかった。
「ねぇ、獅郎」
寒さに身を震わせながら、それとはべつに声が震えた。ひっしに圧し殺した嗚咽がもれそうになり慌てる。