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入学式が滞りなく終わり、アスカや真紅たち新入生は各々のクラスに戻っていく。

2人のクラスはFー1。
1学年のクラス数は9つある。

教室に入ると既に友人同士で会話をしている者が大半だ。殆どが中等部からの持ち上がりだからか、進学というよりクラス替え、という意識の方が大きいのだろう。

教室にいた他の友人との挨拶もそこそこに、黒板に貼られた席順が記された紙に目を通す。


「私の席は…あ、真紅、私の隣だね」

「うわ、」

「何その嫌そうな顔」

「また数学で当てられたら頼ってくる気か」

「勿論、今年もよろしくお願いします」


ついでに周りに誰が座っているのかも確認しておく。
大体は中等部からいる顔見知りばかりだが。


「ん?」


自分の席の丁度真後ろ。
そこには見慣れない名前が書かれていた。


「流郷 雫…って中等部にいたっけ?」

「いや、俺は覚えてないけど」

「じゃあ高等部からの編入組かな」


後ろを振り返って、席を確認してみるもそこはまだ空席だ。

そろそろ担任の先生も来るだろうに。大丈夫なのだろうか。

真紅は早々と席につき、机に突っ伏している。
春休み中は毎日高等部のバスケ部に足繁く通っていた。睡眠不足なのだろう。

仕方ないので自分の席に座り、教室の隅にある壁掛け式の時計を見つめる。
カチリ、時計の長針が30を指した。
8時30分。HR開始を告げるチャイムが響く。
それと寸分違わないタイミングで教室の扉が開いた。


「はい皆さん、席に着いて下さいね」


汚れ1つない白衣を纏った長身の男性。
優しげな顔立ちと落ち着いた声。端麗な容姿の持ち主だ。

ざわめいていた教室が次第に静かになっていく。それを確かめ、男性は口を開いた。


「皆さんご入学おめでとうございます。
これから1年間、このクラスの担任の霧生千尋です」



HRが続く中、教室の後ろの扉がそろそろと開いた。アスカがその音に気づき視線を向けると、姿勢を低く落としながら教室に入ってくる少年と目があった。


「…しー」


口の前に人差し指を立て、イタズラっぽく少年は笑った。
やや癖毛の青い髪がふわふわと揺れる。幸いにして千尋は黒板にチョークを走らせている最中。

少年はアスカの後ろの席に辿り着き、その椅子に腰を下ろした。
アスカは後ろを向き小声で話し掛ける。


「…流郷雫くん、だっけ?」

「ん?そうだよ。
なんで知ってんの?」


「席順の紙見たから」

「あぁー、なるほど!」


妙に納得した様子の彼に思わず笑みが零れる。


「…それでは、少し早いですがHRを終了します。
それと、校庭で部活動の勧誘が行われていますので良ければ見に行って下さいね」



千尋が教壇から離れたのを見て、続々と教室から出ていく。部活動の勧誘を見に行くのが殆ど、残りは帰宅といったところか。


「真紅、HR終わったから起きなよ」

「…早くないか、終わるの」


真紅の肩を揺らすと、真紅は目を擦った。
すっかり熟睡していたらしい。


「友達?」


雫がアスカの背をツンツンとつついて尋ねた。
それにアスカは微妙な表情を浮かべる。


「友達…っていうか、幼なじみ?」

「へー。あ、そういえば名前なんていうの?」


「私?私は七瀬アスカ。
こっちが火宮真紅」

「アスカと、真紅な!
俺のことも名前で呼んでいいから!」



まだ目が覚めきっていない真紅は適当な返事を返した。
いい加減早く目を覚ませと言いたい。







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