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□季節は、春
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ぱちり。
見慣れた天井をちょっとの間見つめて、いそいそとベッドから這い出てアスカは目覚まし時計を押した。
設定していた時刻の5分前。七瀬アスカの目覚めは爽快だった。
鼻歌混じりにカーテンを一気に開ける。光を遮断され薄暗かった部屋に朝の日差しが差し込んだ。
窓の向こうには隣家。
昔からの幼なじみが住んでいる。カーテンが閉まっているのでまだ夢の中なのだろう。
寝ているなら、とクローゼットを開けて着替えを開始する。
取り出したのは皺一つない新品の制服。幾分大きめなそれは今日から入学する高等部のものだ。
中等部まではセーラー服だったから、ブレザーには新鮮味を感じる。
胸元のエンブレムは赤い。今年の1年生の学年色だ。2年は緑、3年は青というように一目で学年の区別がつくようになっている。
胸を躍らせながら制服に着替えたアスカは鏡の前に立つ。
「…やっぱりちょっと大きいかなー」
腕を伸ばしてみる。裾が手のひらを覆う。
これから身長が伸びるだろうと考えてのこのサイズにしたが、思い出せば中学2年から身長は殆ど変わらない。
望み薄だ。
「…」
改めて鏡の自分を見つめる。
リボンが曲がっているかな、と微調整。
今日から高校生だ。自然に頬が緩む。
誰もいないことを良いことに、その場でクルッと回ってみる。スカートがフワッと舞った。
「…ふふふー」
調子に乗って、もう1回転。
実に上機嫌だ。
「…お前、何してんだ?」
「え」
窓の外に視線を向ける。向かいの家のカーテンが開いていた。ついで窓も開いていた。
トドメに幼なじみが窓に手をかけて、不審者を見る目で見つめていた。
沈黙。
「…見てた?」
「見てた」
「…どの辺から?」
「ふふふーとか言ってた辺りから」
「…この覗きが」
「馬鹿やってたお前が悪い」
この幼なじみ、名前は火宮 真紅という。
子どもの頃からバスケをしており、全国でも名の知れたプレイヤーらしい。
幼等部に入る以前からの付き合いで、腐れ縁とも言える。