フライハイト

□2話
1ページ/4ページ




イッシュ地方の中枢、ヒウンシティ。

スリムストリートを少し進んだ先。消して善人とは言い難い人間達の住処になりつつあるその様は活気溢れる表通りとは対照的である。とても同じ街とは思えない。
そこに、申し訳程度に小さな看板が置かれている。

憩いの調べという文字とコーヒカップのシルエット。一目でカフェだということが分かる。

そして、その憩いの調べからたった今出てきた少年。その後には付き従うようにキリキザンがついてきている。


『…レーヴェ、珂韻が見当たらないぞ』


キリキザンが辺りを見渡して、またかと辟易した様子を見せた。どうやら大して珍しいことでもないらしい。


「仕方ないな、あいつは個人行動しかできないから」


レーヴェと呼ばれた少年は肩を竦めて、歩き出す。さして気にした様子はない。

メインストリートに出る前に、長めのコートを羽織る。太股のホルスターに収まっている物は、とても白昼堂々見せびらかせるものではない。


「レーヴェ、今日は幾ら稼いできたんだよ?」


メインストリートに向かう途中、地べたに座り込んだ男がそう言った。
20代半ば程だろうか。レーヴェを見上げ、下卑た笑みを浮かべている。


「安い稼ぎだよ、言うほどの額じゃない」

「ひひ、俺も稼ぎに貢献してやろうか?」

「仕事の依頼はオルクスを通すか、こっちで頼む」


そう言って、左手首のライブキャスターを指先でトントンと叩いてみせる。


「お堅いねー、相変わらず。
可愛いのは顔だけか」

「顔も性格も悪いお前よりはマシだろ。
…そうだ、珂韻どこに行った?」

「…珂韻?あぁ、あの薄気味悪りー兄ちゃんか。
あっち行ったぞ」


男が指差す方向はメインストリート。最も人通りが多い。あまり人の多い場所には行きたくないのだが。


「…そうか、ありがと」


珂韻の行き先はレーヴェの予想通りだった。
短く礼を言い、足早にメインストリートへ向かう。


「お前も大変だね」


レーヴェの後に続こうとしたキリキザンに男が話し掛ける。振り返って、男のややキツめの目を見る。


「ま、あいつが死なないように見張ってくれや。
知らない内に死なれでもしたら目覚めが悪いからよ」


キリキザンは何度か目をしばたかせた。男の言うことが意外だったのだろう。狭い路地に風が入り込む。
男はブルッと体を震わせて、くしゃみをした。男の服装は薄汚れた薄手のシャツだ。春先といえど寒いのだろう。


「引き留めて悪かったな。ほら、ご主人が行っちまうぞ」


鼻をすする男にキリキザンは礼儀正しく一礼した。全く淀みのない所作に、男は目を白黒する。


『ありがとう』


男には只の鳴き声にしか聞こえないだろうが、その大まかな意味は汲み取れたのだろう。

ニッとやはり悪人がするような笑みを浮かべ、早くいってやれと急かした。

キリキザンは男にもう一度小さく頭を下げ、主人の背中を追い掛ける。










次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ